『めぐり逢えたら -最終部-』
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【朋美Side2】

「勝村さん、今日はこちらだったんですか。 で、お願いってなんですか?」

「ここの会議で明日使用するこの資料なんだけど、
 作り直すことになってねぇ、それを手伝ってもらえないかなぁ。」

突然の事で、話の内容が今ひとつ解らなく首を傾げていると、勝村さんが事情を説明してくれた。

大阪に転勤した勝村さんは、営業会議の代理の為、東京支社に出張に来ていた。
本来、その会議に出るはずの人が、急用でこれなくなり、その代役で説明担当で来てみたが、
本来の担当が作成し、先に提出していた、会議の為の会議資料を、
新しい推進営業部長の滝川さんに、こんな資料は使えない! と、一蹴されてしまい
今日中に、ほぼ作り直しを言い渡されたとのこと。

とんだとばっちりを受けた上に、厳しい滝川さんの指示を受け、
困った顔で助けを求めてきた勝村さんが少し気の毒になり、手伝いを了承した。

過去5年分の種類別の月度売り上げ集計と半期ごとの売り上げ利益の算出
1年ごとの純利益を全て計算して、プレゼンテーション用の資料作成をするとの事。
午後から手を掛けても、間違いなく定時内に終わらない作業量、
でも、集中できる仕事があることが、今はありがたかった。

勝村さんと分担しても作業量が多く、しかも意外と手がかかり、
やっとそれらしいものが形になった時、時刻はに22時を過ぎていた。

「ありがとう。 本当に助かった。」

満面な笑みでお礼を言われ、少し申し訳なく思った。
お礼を言いたいのは、実は私の方だったと思う。
今までの時間、何も考えずにいた事で、少し気持ちが楽になった。

「遅くなっちゃったけど、今から夕食でもどう? お礼にごちそうするから。」

気持ちが少し落ち着いたものの、食欲はまだなかった。
でも、食べに行けば何か食べられるかもしれない、
それに、少し気が紛れるかもしれない。
そう思い、勝村さんと夕食を食べることに同意した。

勝村さんとは、昔は面識がある程度だったけれど、ここ数年、
彼が大阪へ転勤してから、私の課の仕事に絡むことが多くなり、
依頼される仕事を通じて、少し話しをするようになった。

最初は、和美との事がひっかかり、あまり良い印象がなかったけれど、
仕事で接していくと、当初耳にしていた通り、とてもいい人で、抵抗感がなくなっていった。


会社を出てから、お互い、帰る方向が逆だったので、結局に駅近くの居酒屋に入った。

「それじゃ、今日は本当にお疲れさま。 乾杯!」

勝村さんはジョッキのビール、私はお酒は断り、ウーロン茶を口にした。

それから、しばらくは世間話をして、出された総菜で食べれそうな物だけを少しずつ口にした。

「松下さん、食欲ないの?」

「あっ、いえ、すみません、ちょっと、最近胃の調子が悪くて。」

「なんだ、そうなら言ってくれればいいのに。

 それじゃ、胃に優しいものを頼もうか。」

さりげない気遣いが、今は心に浸みる。
この人だから、和美はつき合ったんだろうと、今、改めて思う。

仕事で絡むことが多くなったことで、勝村さんの人柄を、今までよりも知る機会が多くなった。
知れば知るほど、良い印象になっていくものの、
その反対に、私の中で、一つの疑問が大きく育っていった。
どうして、和美と別れたのか。

別れたいきさつについては、和美は何も言わなかった。
だから、私から聞くことも出来なかった。
どこか、和美の瞳が、それ以上そのことに触れて欲しくないと語っていた気がしたから。

「勝村さんに、一つ聞きたかったことがあるんです。」

話題がとぎれた一瞬の間に、無意識に口に出してしまった。

「うん? なに?」

「勝村さん、どうして和美と別れたんですか?」

どうしてこんな事を唐突に聞いたのか、自分でも解らなかった。
でも、その後、勝村さんの口から出た言葉を聞いて、
私は聞いた事を激しく後悔することになる。

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