『めぐり逢えたら -最終部-』
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【朋美Side1】

その日、どうやって帰ったのか覚えていない。

和美からの手紙を読んだ後、何も考えられなくなって
しばらくの間、和美の匂いがするベッドに横になっていた。

昨夜、暖かく包まれたしなやかな腕の感触,
唐突に、狂おしいほど求められ、
抱かれた幸せは、私の願望が見せた夢のように思えた。

和美の枕を抱きしめ、微かな残り香を胸一杯に吸い込む。
突如置き去りにされた悲しみに、あふれる涙を枕に滲ませる。
瞼を閉じると、穏やかに微笑む和美の顔が浮かんでは消えた。

何時なのか解らなくなった後、体を起こし携帯を握りしめる。
祈るように掛けた電話は、
電源が切られている事を伝える機械的な女性の声が聞こえてくるだけだった。
思考能力が低下した状態で、力の入らない手で携帯のメールを打った。

何がなんだか解らない
お願い、ちゃんと話を聞かせて
逢いたい、逢ってちゃんと話したい
お願い、お願いだから連絡を下さい

伝えたい言葉をメールする。
でも、本当は、そんな事を言いたいんじゃない。
ただ、逢いたいだけ・・・。
逢って、もう一度優しく抱きしめて欲しいだけ・・・。
謝ってもらう事なんて何もない。
何も言わず、壊れるほどに抱きしめて欲しい・・・。

来る可能性がないメールを送った後、無意識に支度をし、
置かれた手紙と部屋の鍵を握り締めて、部屋を後にした。

1週間も待てない。
そう思いながら、それからも何度も電話をし、何度もメールしたが
一度も連絡はこなかった。


体がだるく、不眠と食欲不振で、立ちくらみをする体を
引きずりながら月曜会社へ出勤した。
余計なことばかりを考え、不安を余計に煽る気がして
体調は最悪だったけれど、部屋で一人にはなりたくなかった。

更衣室に入ると、不意に和美のロッカーが視界に入る。
ロッカーに貼られている和美の名前を目にするだけで、涙が出そうになる。
浮かび上がった涙を目頭で押さえながら、自分の座席に向かった

朝礼が終わり、席に戻りパソコンを立ち上げる。
午前中は、何も考えずただパソコンに向かい、仕事に没頭した。

昼休みのチャイムが鳴っても、席を立たなかった。

いつも一緒に過ごした昼休みは、考えたくない和美の事を否応なく思い出させる。
こみ上げる想いと苦しみを、ビタミン剤と一緒にぐっと飲み込み、
休憩を取らずに仕事をこなした。

午後に入ると、ふいに背後から声をかけられた。

「松下さん、ちょっとお願いがあるんだけど・・・。」

申し訳なさそうに声を掛けてきたのは、昔、和美とつき合っていて、
今は大阪支店にいるはずの勝村さんだった。

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