『告白』
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【有希Side】

「あの日の気持ちは・・・、5年前の、あの時の気持ちは・・・。
 奈美の気持ちは、もう変わってしまったの?」

私が振り絞って聞いた問いに、奈美の答えは返ってこない。

部屋の中は、沈黙に包まれている。

奈美は何も言わない。

部屋は静かに静まり返っていた。
私が求めた答えはいっこうに返ってこない。

私はその沈黙に耐えられなくなって、イスから立ち上がり、部屋のドアへと体を翻した。

部屋を飛び出そうとしたその時・・・、

「有希っ!!」

奈美は私の肩を掴み、ドアに向かおうとしていた私の体を壁に押しつけ、私の顔の横に
両手をかけ、逃げ場をなくす。

私の眼前には、頭をもたげ、俯いた奈美の姿があった。

「有希・・・、有希・・・。」

奈美が泣いているのが解る。
押さえつけられ、逃げ場がないのは私なのに、奈美の方が苦しそうに泣いている。

私は両手で、奈美の頬を包み、顔をそっと私の目の前に持ち上げた。

奈美の目からは涙があふれ、流れ落ちている。

「ずっと、ずっと忘れようと思ってた。
 この5年間、離れていれば、いつかは吹っ切れると思ってた。
 このまま会わなければ、思い出にできると思ってた。

 でも・・・、でも・・・。 会ってしまったら、有希の顔を見てしまったら・・・。」

涙ながらに、奈美は小さな声で、自分の気持ちを打ち明けてくる。

「ごめん、ごめんなさい・・・。 私、まだ有希の事・・・。」

泣きながら最後の方は言葉にならない奈美を、私は黙って抱きしめた。


「奈美、もういい・・・、もういいの。 もう、いいから・・・。」

「ゆ、有希・・・。」

「あのね、ずっとこの5年。 奈美の告白の事を考えていたの。
 私にとって奈美は、大事な友達で、親友で。
 あの時は、突然告白されて意味が分からなかった。

 でも、離れてみて、奈美がいなくなって、奈美の存在がなんだったのかずっと考えて。
 考えて、考えて・・・、それでも答えが出なくて。

 今日、偶然奈美に逢えて、私の奈美への気持ちが何なのか解るかと思ったの。
 でも、あの日の事を無かった事にして欲しいって言われて、ものすごく気が動転してしまって。

 今も、奈美の中の気持ちが変わってしまったのかを聞いた時、
 何も言ってくれなかったから、もう気が変わってしまったのかと思って。
 もう私の事は好きじゃないって言われたらって思ったら、耐えられなくって・・・、
 それで帰ろうとしてしまったの。」

顔を上げた奈美の目元の涙を両手で拭い、私は言葉を続ける。

「何も思ってない人の事、5年間も考える事なんてできない。
 今日、再会して、やっと、やっと自分の本当の気持ちが分かった。私、奈美の事が好き。」

ありったけの気持ちを込めて、私は奈美を力強く抱きしめた。


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