『告白』
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【奈美Side】

改札を通る寸前の有希の肩を掴み、慌てて声をかけた。

「有希・・・。」

私は全力で有希を追いかけた。
あの日のように、このまま終わりにしては行けない気がしたから。

あの日のように、今日の事が、また有希を縛り付けてしまう気がしたから。

「はぁっ、はぁっ・・・。 待って、お願いだから。」

「奈美・・・。 どうして・・・、どうして追いかけてきたの。」

驚いた表情の有希の目には、涙の跡が残っていた。

「有希、お願い、もう少し話を聞いて。」

強引に手を掴んで、有希の目を真剣に見つめながら訴えた。
有希は何も言わずに、首を縦に振って、俯いた。

私は、有希の手を握り、そのまま駅から離れ、私の泊まっているホテルへと向かった。
私に手を引かれたまま、有希は無言でついてきた。

有希にどう話せばいいのだろう。 引き留めてみたものの、何を話すのかは、考えていなかった。
ホテルに着き、私の泊まっている部屋に入るまで、私も有希も、何も話をしなかった。

とりあえず部屋に入り、一組の小さなテーブルセットのイスに有希を座らせた。
ホテルに備え付けの電気ポットでお湯を沸かす。
3分ほどで沸騰し、おいてあった紙コップのインスタント珈琲2つ分に、お湯を注ぐ。

同じ部屋に有希と一緒にいても、その間会話はなかった。

「インスタントだけど。」

そう言って、私は珈琲の1つを有希の前に置き、もう1つの珈琲を持ちながら
私はテーブルセット脇のベッドに腰を下ろした。

珈琲を一口飲み干した後、重い空気の中、私はやっとの思いで言葉を口にした。

「さっきは、有希の気持ちを考えずにあんなことを言ってごめんなさい。
 無かった事にすれば、有希を5年前のあの日の事から解放できるかと思ったから。

 でも、余計に傷つけてしまった。
 私はいつでも、有希を傷つけてばかり。 本当は誰よりも傷つけたくないのに。
 有希には、いつも笑っていて欲しいって思っているのに。」

「奈美・・・、 お願い一つだけ答えて。」

有希は俯いたまま、私を見ずに呟いた。

「なに?」

私は静かに有希が聞きたがっていることが何なのかを訊ねた。

「あの日の気持ちは・・・、5年前の、あの時の気持ちは・・・。
 奈美の気持ちは、もう変わってしまったの?」

消え入るような声の有希の声。
私はその答えにとまどい、答える事ができず押し黙ってしまった。


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