『告白』
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【奈美Side】

久しぶりの日本だった。

日本を離れたあの夏の日から、5年が過ぎている。
みんなはもう大学も卒業して、社会へ出ているだろうか。

父親と母親は、まだイギリスに駐在しているが、私は日本へ帰国した。
イギリスにいる間に大学を卒業し、就職活動をするために。

就職は日本でするつもり。 イギリスに居たときの英語が役に立つだろうし、
私はやっぱりイギリス社会には、なかなか馴染めそうにないから。

当面はホテル暮らしをしながら就職活動をする事にしていた。

久しぶりの日本だったので、つい自分の地元に行きたくなった。
5年でどのくらい変わっただろうか。 それとも全然変わっていないだろうか。

久しぶりに通る地元駅はすっかり形を変え、知らない間に自動改札になっていた。

町中を歩くと懐かしさがこみ上げる。
5年たっていても、あまり大きな変化はない。

見慣れた商店街、若干店が入れ変わっていたりしているけれど、雰囲気は変わっていない。

いつも通った通学路。
学校帰りに寄った喫茶店。

その時私の隣にいたのは・・・、有希。

5年前に吹っ切ったはずなのに。 もう忘れる事にしたはずなのに。
懐かしい街に来たからだろう、懐かしい想いがこみ上げる。

久しぶりで、つい、感傷的になっちゃったかな。

気が付くと、自分が前に住んでいた家の前だった。
そこには新しい住人がいて、新しい生活が始まっていた。

自分が長い間住んでいた場所で、すでに新しい生活が始まっている事を目にすると
自分の居場所がもう日本にはないような気がして淋しくなった。

背を向け自分の旧家を後にした。

無意識に町中をさまよい続けていると、忘れていたはずの想いが足を進めさせる。
気が付くと、有希の家の前だった。

懐かしさがこみ上げる。 何度も遊びにいった家。
有希の部屋で過ごした時間。 昔の思い出が頭の中をすり抜ける。

しばらく思い出に浸ったあとで、その家も後にした。


その後、しばらく滞在するホテルに戻るために、最寄り駅を下車した時、
突然背後から声を掛けられた。

奈美? 奈美なの??

振り返ると、そこには、見覚えのある顔、さっき頭の中をすり抜けていった懐かしい顔があった。

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