『告白』
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【有希Side】

「な、奈美! 奈美!!!」

離れていく奈美の背中にありったけの声で叫ぶ。

それでも、容赦なく奈美の姿は視界から消えた。

私は何が起きたか解らず、離れていく奈美を追うこともできず、その場から動けなくなってしまった。


どのくらい時間がたったのか解らない、体にようやく力が入るようになった私は屋上を後にした。
校舎にはもう人はほとんどいなかった。
明日から夏休みだからだろう。 人気の居ない校舎は、薄暗くとても心細いものだった。

家に帰り、電気を付けず部屋で今日の事を思い返してみる。

奈美は私の事を好きだと言っていた。
奈美に言っていた言葉が、奈美を傷つけていたことを知った。

そして・・・、奈美にキスされた。

そのシーンを思い出すと、今でも顔に血が上る。

突然の奈美の行動に動転してしまい、思わず奈美の頬を叩いてしまった。

奈美、一体どうしちゃったの??

解らない・・・。 でも、ちゃんと話をしなきゃ・・・。

今日の出来事が頭の中で整理できてはいなかったけれど、
それでも、明日ちゃんと話をしなきゃいけないと思った。



翌日、奈美の家に電話した。
奈美が電話に出るかどうか解らなかったけれど。

ところが、掛けた電話が繋がったと同時に流れていた言葉は、

『この電話番号は、現在使われておりません。』

今まで何度も話をした奈美の家の電話が突然不通になっている。
どうなっているの??

何か胸騒ぎがする。

私は家を飛び出して、奈美の家に向かった。
走って、走って。

20分ほど走って奈美の家に着く。

「えっ?!!」

今まで何度も遊びに行った奈美の家は、がらんと静まり返っている。
家族で旅行に行ってるとか、たまたま不在とか、そういう事ではなく、
人が住んでいる気配がなくなり、玄関脇に掲げてあった表札が外されている。


ど、どういうこと??
私の頭は、今の状況を理解できなかった。

しばらく呆然と奈美の家の前で立ちつくしていると、隣の人が犬の散歩から帰ってきていた。
思わず、奈美の家の事を訊ねた。

「あぁ、柴崎さんなら、引っ越されたわよ。
 なんでも、ご主人の仕事の関係で、イギリスへ行くことになったって。」

引っ越し?? イギリス??

一体、一体どういうことなの??

頭の中が更に混乱する。
昨日の出来事と突然の引っ越し。

奈美、どうして・・・。 どうして、こんな突然・・・。

一気に走って来た疲れと、頭の中の混乱で、全身がだるく疲労感に包まれ、力が入らない。



ふらつきながら家にたどり着く。
ベッドに倒れ込むように横になると、頭の中に昨日の奈美の顔が浮かぶ。

奈美、どうして・・・。 どうして何も言ってくれなかったの??
どうして、どうして、昨日あんなことを??

これでさよならなんて・・・、嫌、イヤだよぉ・・・。
こんな別れかた、イヤだよ・・・。

涙がこみ上げてくる。

奈美は一番の友達。
奈美がいたから学校が楽しかったのに。
この夏休みも、一緒にいっぱい遊んで、2人で一緒に思い出をいっぱい作りたかったのに。
夏休みだけじゃない、2学期も、冬休みも・・・、卒業するまで、いや、卒業しても。
ずっと、ずっと一緒にいる友達だって思っていたのに。

奈美・・・。




数日後、担任から電話がかかってきた。
奈美から預かっているものがあるとの事だった。

私は学校へ行き、担任から奈美の手紙をもらった。




有希へ

この手紙を有希が読んでいるということは、私はもう有希と会う事はないだろうと思ってる。
イギリスに行かなければならなくなったのは、突然の事で、3ヶ月前に親から言われた。
有希にいつ言おうかと悩んで迷って。 でも、どうしても言えなくて。
言ってしまうと、有希がもう笑ってくれないような気がして。
少しでも長く、少しでも有希の笑顔を側でみていたかったから、最後まで言えなかった。

ごめんなさい。

どのくらいイギリスにいることになるのか解らない。
日本に帰れるのかもわからないから、今度いつ逢えるようになるのか解らなくて。
そう思ったら、自分の気持ちをどうしても有希に伝えたかった。

夏休み前の最後の日、私は多分有希に告白したと思う。

そこで、もし・・・、万が一、有希が気持ちを受け入れてくれたのなら、
この手紙を担任に処分してもらうようお願いをして
イギリスの住所も有希に連絡するつもりだったけれど、
この手紙を読んでいるのなら、きっと見事な失恋をしたんだと思う。

だから、もう会わない方がいいと思うので、何も言わずに離れることを許してください。

それと、嫌な気持ちにさせてしまってごめんなさい。

遠い地から、有希の幸せを願っています。

                                           奈美






奈美、 奈美・・・。

酷い、酷いよ。
酷いのは奈美の方だよ。

私、何も言えなかった。 何も伝えられなかったんだよ。
奈美からの強引なキスが、
私のファーストキスが、奈美とのさよならのキスだなんて、酷すぎるよ。

奈美の好きって気持ちに、私が答えられるかなんて解らない。
でも、奈美がいなくなるのは淋しすぎるよ。 辛すぎるよ。

私は奈美からの手紙を胸に抱きしめながら泣いて、泣いて、泣き続けた。



その夏は、とても厳しい暑さが続いたけれど、心は冷え切り、
私は奈美を失ってしまった。

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