『いつか、あなたの隣りに -浅野Side-』
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布団に入り、今日の疲れから、眠りに落ちそうになりかけた時、聞かれない音が耳に付いた。

『んっぅ、ひっくぅっ・・・。』

良く耳を澄ますと、それは嗚咽のような、しゃくり声のような、声を押さえて泣いているような音。

(森田さん・・・?!)

「どうしたの? 眠れない?」

彼女が寝ている方へ体を向け、静かに声を掛けた。

「い、いえ、大丈夫です。」

そう言う彼女の声は、どもっていて、泣いているのがすぐに解る。
暗闇に目が慣れた頃、少し離れた所にある彼女の表情が目に入る。
布団で口元を押さえながら目からは涙が流れ落ちている。

「どうしたの、何泣いているの? 今日のことを気にしているの?」

肘を付いて体を起こし、、暗闇の中へ手を伸ばし、彼女の目元に指で触れながら涙を拭き取る。

「わ、私・・・、今回の事は、私自身のミスで、浅野さんに一杯迷惑を掛けてしまって。
そ、その・・・、自分が不甲斐なくて、自分が情けなくて、悔しくて・・・。」

そう言うと、彼女の涙が更に溢れ、止めどもなく流れ落ちる。

心細かったのだろう、怖かったのだろう。
初めての自分のミスで、会社にどれだけの迷惑をかけるかと思うと、そんな恐怖があったのだと思う。

私にも覚えがある。でも、今回の森田さんのミスよりももっと大きなミスをしたこともある。
だから、今の彼女の気持ちが痛いほどに良くわかる。
あの時、私は誰かに縋りたかった。誰かを頼りたかった。 でも、誰一人助けてくれる人はいなかった。

(心細かったのね・・・、怖かったのね・・・。)

当時の自分の心の痛みが甦る・・・。
私は無意識に彼女の髪に触れ、優しく撫でながら彼女の頭を優しく抱きしめた。

「誰だって完璧ではないわ。 わざとした事ではないし、失敗は誰にでもある。
問題なのは、失敗した後、自分が何をしたら良いのか、何をすべきなのかを考えることよ。」

私はあの時、誰かに抱きしめて欲しかった。
そう思ったら、自然に目の前で涙を流していた彼女を抱きしめていた。

「私は昼間に、あなたのできることをしなさいと言ったわ。 それは、やるべき重要な事を判断して、
最優先にしなければならないことをまず進めなさいという意味だったのよ。

あの時点では、設計書はほとんど手をつけられていなかったけれど、文書は他の人に頼もうと思えば出来るわ。
あの時、あなたがすべき事は、プログラムを完成させること。 あなたはそれを一所懸命にしていたわ。

まぁ、不具合の修正には経験が必要だから時間がかかってしまったようだけど。 でも、あなたは私の指示通りに
仕事を進めていてくれた。 それで十分よ。

今回の事はあなたにとって良い勉強だったと思う。 だから、あなたはもっと伸びるわ。 安心しなさい。」

あの時、私は誰かに癒されたかった、許されたかった。
そんな人がいないと解っていたからこそ、心の底では、暖かく包んでくれる暖かさを求めた。

「っ、えっぅっ・・・えっっくぅ・・・。」

彼女の頭を抱きしめている胸元から、泣き声と嗚咽が聞こえてくる。

(大丈夫。 私はあなたを見守っているから。 だから、安心しなさい。)

彼女の背中に腕を回し、彼女が落ち着き眠りに落ちるまで、優しく背中をさすった。

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