『いつか、あなたの隣りに -浅野Side-』
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「このバグ(不具合)の原因を見つける為には、罠をいくつか仕掛けてその結果を調べる必要があるわ。
パソコンを貸しなさい。」

私は絡まった原因を解く為に、いくつもの罠の為のプログラム文をいくつもの箇所に仕掛け、どの段階で
異常動作になっているかを分析し、要因を絞り込む事にする。

罠の仕掛け方にはいくつもの経験とある程度の知識が必要。 彼女には知識は幾分あるけれど、
それを使いこなす為の経験が圧倒的に不足していた。 それを身を以て知ってもらうにはいい機会だと思った。

30分ほどプログラムを解析して、何が要因だったかおおよそ見当がついた。
ミスは6カ所ほどあり、それが絡まった結果、異常動作の結果がいくつもの現象を生み出し、原因を
わかりにくくしてしまっていた。

(さてと・・・)

「解ったわ。 修正個所は、6カ所。 今から説明するからしっかり聞いて。」

「は、はい!!」

私は簡単に、不具合の原因と、その原因を見つけるための罠の仕掛け方、見つけ方を簡単に説明した。
言われれば理屈は難しくない。 だが、経験が無ければ追い方も選択肢も圧倒的に少ない。
彼女は、必死になって食い入るように私の説明を聞いていた。

「あ、ありがとうございます。 ほ、本当に、本当にありがとうございます・・・。」

一通り説明を終えた時、彼女は目を潤ませながらお礼を口に頭を下げていた。

「お疲れ様。 これは、経験の差よ。 あなたがあと5年も頑張れば、私のようになるわ。」

彼女のひたむきな仕事ぶりを目にして、私は心からそう思った。

ふと今何時なのだろう?と気になり、腕時計を見る。

(あら、もう3時。)

こんな時間なのだから、電車が走っている訳がない。

(確か、森田さんの通勤は、電車で30分くらいだったかしら。それに一人暮らしだったかしら?)

電車で30分離れている所だとタクシー台もかなりかかるはず。

「もう3時ね。 そういえば、森田さんはこの後どうするの? 電車も動いてないし、タクシーで帰るつもり?」

「あっ、いえ。 今日は会社で徹夜するつもりだったので。 このまま会社に泊まろうかと。」

(今回の仕事の事で徹夜するつもりだったなんて・・・。)

胸がズキッと痛む。
ここまで今回の仕事の責任を感じていた彼女の気持ちを思うと、もっと早く手助けすれば良かったような、
そんな後ろめたさを感じる。
このままここに泊まらせるなんて事をできない。

「年頃の女の子が会社に徹夜で居残るなんて体に良くないわ。 私の部屋にいらっしゃい。」

「えっ? はい??」

「私はタクシーで家まで帰るから、一緒にいらっしゃいと言ってるのよ。」

私は彼女を自分の部屋へ泊まらせる事にした。
今回の事で、疲れが溜まっているだろう。 ゆっくり休む為には会社に残らせる訳にはいかない。
どうせ、私はタクシーで帰宅するのだから問題はない。

「ほら、ぼやぼやしてないで、いらっしゃい。」

「は、はい!!」

いきなりの事で動揺を隠せない彼女に気付かぬ振りをして、私は自分のマンションへと帰宅した。

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