『いつか、あなたの隣りに -浅野Side-』
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「それより、例の仕事の件で、こんな遅くまで残っていたの?」

「あっ、はい・・・。自分の出来る限りの事をしようと思って。」

「確かに、私は昼間に、自分の出来る事をしなさいと言ったけど。
 でも、決して無理をしなさいとは言ってないわ。」

「でも・・・。」

「プログラムはどこまでできたの? 提出用のプログラム設計書の方は、どうなったの?」

「プログラムは・・・、まだ未完成で・・・。 設計書の方は、まだ概要だけしか・・・。」

(予想通り。プログラムを先行にして、あとで作るつもりだったのよね。)

彼女が俯きながら言葉を濁しているのを見越して、私は彼女に休憩を入れるように告げる。

「ふぅ〜・・・。 だと思ったわ。 まずは、その珈琲を飲んで一服してなさい。」

ミーティングルームで自分が広げていた書類を片づけ、作成し終わったプログラム設計書を
USBメモリに保存し、パソコンを閉じた。
荷物を抱えながら自分の座席に戻り、荷物を置く。 その後、作業を続けている森田さんの所へ向かった。

森田さんは肩を落とし気味で珈琲を飲んでいた。 まだ仕事の目処が立たずにがっくりしているんだろう。
これ以上時間をロスする訳にもいかない。仕方ないので今の状況を見て、
解る範囲で私が手をかけることにする。

そのまえに・・・。

「設計書の方は、私の方で一応まとめておいたわ。 客先との打ち合わせ議事録と要望書を元に
まとめたから、ほぼ内容はこれで合ってると思う。 悪いけど日曜にでも目を通しておいてちょうだい。」

そう言いながら、私は先ほどプログラム設計書の文書ファイルを保存したUSBメモリを彼女に渡した。

「えっ? はっ? えぇぇっ???」

「何気の抜けた返事してるの。 客先に提出する設計書は私が作っておいたって事よ。」

「ど、どうして・・・。 それは、私が作るべき物だったのに・・。」

「どう考えたって、今のあなたに、設計書を作る余裕があるとは思わなかったわ。 あなたが概要を打ち込んだ
電子ファイルが、サーバーの中に入っているのは解っていたから、それを拝借して午後から作ったのよ。」

「あ、浅野さん・・・。」

何が起きているのかを把握しきれず、唖然としている彼女の表情を可愛く思ってしまう。

(なんだかんだ言って、甘くなってしまったかしら・・・?)

特別視しているつもりはなかったけれど、手助けをしてしまった自分の甘さが少し可笑しかった。

(こうなったら、甘さついでに、プログラムの方もとっとと終わらせてしまおう。)

私は彼女にプログラムの状況について説明を求めた。

「さぁ、あとはそっちのプログラムよ。 今の状況を教えてちょうだい。」

「えっ??」

「ほぼできてるのよね? あとは若干のバグ(不具合)でしょ。一緒に考えれば悪い所も見つかるわ。」

「は、はいっ!!」

彼女の口から、現在の異常動作結果について説明を受ける。
その結果、いくつか要因が絡まっているので、その原因を掴みにくい状況になっていることが解る。
おそらく、単純なケアレスミス。でも、溜まっている疲労と精神的ストレスが原因で、見つけにくい要因を
分析することは難しいだろう。 今回はまず私が手本を見せることで、この状況を冷静に判断を導き出す
きっかけを覚えてもらいたかった。


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