『いつか、あなたの隣りに -浅野Side-』
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森田さんが担当している仕事の納期は来週の月曜日。 今日を入れて、あと土日。
おそらく、森田さんは今日、そして土日と出勤して仕事を上げるつもりだろう。

確かに、今回は彼女のミスだとは思う。 プログラムの修正については、あと3日あれば終わるだろう。
でも、文書の方、プログラム設計書の方は、とうてい手が着けられないと思う。

しばらくそんな事を考えながら、今週の森田さんの就業時間を調べてみる。
月曜から昨日まで、深夜まで残業している。 彼女は彼女なりに、必死でミスを補おうとしている。

今回のアクシデントがなければ、森田さんは予定をクリアしていた事だろう。
そう思うと、彼女のミスではあるけれど、少し同情の予知がある。

パソコンを立ち上げ、サーバーに管理されている彼女のフォルダから、彼女が今担当している
大和精鋼向けプログラムに関する議事録や客先からの要望書の電子ファイルを探す。

案の定、仕様に関する資料は全てサーバーの中にあり、その中には森田さんが作りかけていた
文書ファイルもあった。
開いてみると、それはまだ、序章の部分しか打ち込まれていない。

午前中は会議が合ったけれど、幸運なことに午後には特に予定はなかった。

(仕方がない・・・、森田さんに倒れてもらう訳にもいかないし。)

私は午後から、彼女が作りかけていたプログラム設計書を作成し始めた。

定時内は自分の席で打ち込み、残業時間に入ると、
外線電話や社内の他部門からの電話に邪魔されたくなかったので
小さなミーティングルームへ移動し、そこで作業に集中した。

自分で何度か小休憩をいれながら、作業を続け、やっと終わりに指し掛かった頃、時計を見ると
もう1時を回っていた。

流石に、もう森田さんは帰っただろう。
この文書の事は、メールで伝え、彼女に明日にでも文書を確認してもらう事にする。

(もう一息。 さっさと済ませてしまおう。)

ちょうど時計が2時を指す頃、一通り確認を終え、文書が完成した。

(ふぅ、やっと終わった。 あとは、メールを入れればいいわ。)

凝り固まった肩をほぐしながら、仕事が終わったところで珈琲を飲みに行く。

自動販売機へ向かい歩いていると、人影が見えた。

(こんな遅い時間にまだ人が残っていたのね・・・。)

そう思い、近づいていくと・・・、

(森田さん?!)

その人影は間違いなく森田さん。 こんな時間まで残っていたなんて・・・。
自動販売機に背中を向けている森田さんに声を掛けた。

「森田さん、まだ残っていたの?」

まるで私の存在に気付かなかったのか、“きゃっ!!”という声を上げ、買ったばかりの缶コーヒーを
落としそうになり、慌てている森田さんが振り返る。

「ごめんなさい、驚かせるつもりはなかったのだけど。」

「いえ、誰もいるはずがないと思っていたので、つい声を上げてしまって。 すみません。」

慌てている森田さんは、疲れ果てているのが見て取れた。

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