『いつか、あなたの隣りに』
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「そこに座ってゆっくりしていて。 何か飲む?」

「あっ、いえ、そんなお構いなく。」

浅野さんのマンションはいわゆる高級マンションで、部屋は広く、家具などにこだわりがあるのが人目で解るほど
コーディネイトされていて、ドラマなどの主人公が住んでいるような部屋。
通されたリビングには、低めでゆったりととても座り心地のいい長ソファーがあり、そこに座るように言われた。
フローリングの床の上には、足長の触り心地の良い絨毯が敷かれていたので、足下は暖かかった。

「もう4時ね。 シャワー浴びる?」

「あっ、いえ、いいです。」

「そう。 それじゃ、ベッドの支度してくるから、少し待っていてね。」

「あっ、ベッドなんていいです。 このソファーで寝かせてもらえば十分です。」

「何言ってるの。そんな所で寝ると、風邪引くわよ。 あと、私のスウェット持ってくるからそれに着替えなさい。」

ほぼ命令に近い口調で言われ、お邪魔している身分なので従うしかなかった。

しばらくして、浅野さんがグレーのスウェットを持ってきてくれたので、脱衣所を借りて着替えた。
着替えている最中に、“洗面台に、未使用の歯ブラシがあるからそれを使って!”と声を掛けられ、遠慮なく借りた。
着替え終えると、寝室はこっちと呼ばれる。

入ってみると、そこには大きなキングサイズのベッドが一つしかなかった。

「あ、浅野さん・・・、あ、あの・・・、浅野さんは、どちらで寝られるので・・・。」

私の予想が当たって欲しくないようにおそるおそる聞いてみると、

「一緒のベッドだと寝れない? キングサイズだから2人でも寝れると思ったんだけど。」

「あっ、いえ、そ、そ、それだと・・・。」

「森田さんが寝にくいなら、私がリビングで寝るから。」

「あっ、いえ、そ、そんな!! それなら、私がリビングに寝ます!」

「あなたがリビングに寝る必要はないわ。 それなら一緒でいいわね。」

「あっ、えっ、えっと・・・。 はい。」

反対できる理由がなかった。 私が断れば浅野さんがリビングに寝ることになる。
そんな事はできなかった。 だから、結果的に一緒に寝ることを余儀なくされてしまう。

昨日まで、こんなこと想像さえできなかった。
憎んだり、恨んだりすることはあっても、こうして一つ同じベッドでその相手と一緒にねる事になるなんて。

「電気消すわよ。」

私のそんな心の動揺を浅野さんが知る訳もなく、部屋は暗さと共に沈黙に包まれた。

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