『 初恋 =And one year after=
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それから私たちがどうなったかと言うと、私が出した手紙をきっかけに、文通が始まって、
少しずつ、お互いの事を知るようになった。
お互いに見ていることしかしていなかったから、お互いの事を知っていくのはとても新鮮だった。

そのうち、裕美も部活を引退して、受験勉強をするようになった時、
勉強を教える名目で、会う機会が多くなった。

親しくなってくると、それとなく裕美に好きな人がいるのかを聞いてみた。
裕美は顔を真っ赤にして、その話題になるといつも下を向いてしまう。

逆に先輩は?と裕美は聞いてくるけれど、私はいつも、笑顔でこう答える。

「裕美と居るのが楽しいから、今は誰も好な人なんていないよ〜。」

そういうと、裕美は更に真っ赤な顔をして俯いてしまって、結局私の問いには答えてくれない。
更に裕美は私にこう聞いてくる。

「先輩は、どうして、私のことをかまってくれるんですか?」

「だって、裕美が可愛いんだもん。 ほら、私って一人っ子じゃない?
 きっと妹がいたら、こうやって楽しいんだろうなって思うんだ〜。」

私はいつも半分嘘を突く。 裕美が可愛いって思うのは本当。
でも、妹みたいに思ってることは嘘。 だって、妹以上に思っているから。

この頃から、自分が恋愛対象として、裕美の事が好きだということを自覚し出していた。
でも、裕美は私のことをまだ憧れの対象としている気がして、私の好きという気持ちとは
種類が違う気がして、結局、それ以上の事を怖くて言えなかった。

会っている時に、手を繋ぐようになったのは自然の流れだった。
裕美の手は私よりも小さくて、柔らかくて、誰にも繋がせたくない気分になってしまう。

歩きながら手を繋ぐと、裕美はとても嬉しそうに私の手を握り返してくれる。
とてもそれは幸せな時間で、ずっと歩く道が続けばいいのにといつも思ってしまう。

裕美の高校受験が無事終わり、私とは違う高校へ進学することが決まった。
合格祝いを兼ねて、裕美が私の家に泊まりに来た。部屋でお祝いのケーキを食べて、
私はお祝いの腕時計を渡した。(お正月のお年玉を我慢して使わずにがんばってみた)

受験勉強が終わって、心おきなく夜更かしができる!と裕美は喜んでいたけれど、
この時、私の心中は複雑だった。

裕美は私と違う高校。 中学とは違い、高校生活はいろんな出会いがあり刺激が待っている。
中学と高校では、世界が大きく変わることは私自身が体験したから解っている。
裕美が本来出会うべき相手が、その高校にいるかもしれない。そう考えると胸が苦しかった。

夜が更けてきて、一緒の布団に入り、
電気を消した状態で、最初はたわいもない話しをした。

でも心の中では、私は自分の気持ちを話すか迷った。
それでも、今聞かないと、もう2度と聞けない気がして、とうとう切り出した。



「裕美、これで聞くの最後にするから、教えてくれる?」
「ん? なんですか?」
「いつ聞いても答えてくれなかったけど、裕美は好きな人っているの?」

静かで重たい沈黙が続いた。
裕美は、何も言わない。

どのくらいの間があっただろう。 もしかしたら、裕美は寝てしまったのだろうか?

私はこの沈黙に耐えられなくなった。

「裕美寝ちゃった? ごめんね、変な事聞いて。 おやす・・・。」

そう言いかけた言葉を遮って、裕美が小さく呟いた。

「ずっと、、、ずっと前から好きな人がいるんだけど、でも、ずっと言えないままで・・・。」

初めて裕美は答えてくれたのだけど、聞かなきゃ良かったとすぐに後悔した。
涙がこみ上げてきた。電気を消していて良かった。

私は声を振り絞り、お姉さんぶってこう言った。

「そっか〜、なーんだ、ずっと好きな人がいたんじゃん。もう、言ってくれればいいのに。
 大丈夫、裕美が告白したら、誰だって嬉しいに決まってるよ。お姉ちゃん応援するからね!」

自分でそういいながら、涙が流れそうになるのを気付かれないように、
背を向けて寝返りを打とうとすると、布団の中で、裕美が私の手をギュっと握ってきた。

「えっ?!」
「わたし、わたし、、、ずっと、ずっと香織先輩の事が好きだったんです。ごめんなさい。」

そういうと、私の背中にすがりつき、泣き出してしまった。

「ひ、裕美・・・。」
「ごめんなさい、気持ち悪いですよね。 でも、でも、私、香織先輩の事、
本当に好きで、ずっと前から恋していて。 でも、ずっと言えなかった。」

私は裕美の方へ体の向きを変えて、泣き出した裕美と向かい合うように体を返した。

「ご、ごめんなさい・・・。
 先輩は、私のことを妹みたいにかわいがってくれてるのが解っていたから。
 だから、こんな気持ち迷惑だって解ってたし、嫌われるのが解ってたから、
 だから・・・、だから、ずっと、ずっと言えなくて・・・。」

裕美は泣き続けていた。
私は何も言えなかった、私も泣いていたから。


私は裕美の体を抱き寄せて体に腕を回し、涙声ながらに裕美の耳元にこう呟いた。

「ありがとう。 私も・・・、私も、裕美の事がずっと好きだったの。
 ごめんね、今まで言えなくて・・・。

 裕美のこと好きだったけど、裕美は私のことを憧れとしか思ってないと思っていたから。
 だから、気持ちを知られるのが怖くて、妹だって思うことで気持ちを抑えていたの。」

一瞬泣いていた裕美の体のふるえが止まった。 暗闇の中で、裕美の顔を見つめる。
裕美も顔を上げて、私の顔をじっとみつめているのが解かる。

私たちの顔の距離がどちらともなく近づいていって、自然に唇を重ね、
お互いに初めてのキスを交わした。
それは、とても甘く、胸の奥が焼けるように熱くなるものだった。

その夜、泣きながら、そして最後は笑いながら、私たちは抱き合って眠りについた。




出会いは中学の時、その時は、この気持ちが恋だと解らなかった。

私たちは、意識してしまうのが始まりだと気付かなかった。

握りしめる手の温かさが、私の気持ちを暖めてくれた。

あなたに出会って、恋を知った。 この気持ちは忘れない。

ずっとずっと、あなたの事が好きでした。



− おわり −

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