『 初恋 -西原side-
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夏の最後の大会が近づくと、3年生と2年生の合同稽古が頻繁にあった。
2年生の成長はすさまじく、気を抜くと押されてしまうほどの勢いがあった。

2年生と一緒に稽古できるのは嬉しい。
順番で回ってくる稽古の相手が、坂本さんの時は、嬉しかったけど、もうすぐ
一緒にできなくなる日が来ることを思うと、決して手を抜かず1回1回を真剣に向かい合った。


そして夏の大会の日。
市内大会で勝てば、地区大会へ行ける。そうしたらもう少しだけ引退する日が延びる。
部活を引退したくはなかったけれど、それは無理。 だったら少しでもその日が延びることに
願いを掛け、全力で戦った。

でも、あと1勝で届かなかった。悔しかった。最後の整列の時、思わず涙が出た。
悲しかったけれど、でも全力で戦えた事に満足して、帰りには友達と笑って話をしていた。
その日、大会の終わりと同時に私の部活生活も終わりを告げた。



部活を引退した夏休みは味気なく、受験勉強をしないといけないと思いながらも気が抜けていた。

休み明けのクラスは徐々に受験を意識し出していて、
休み時間も参考書を片手にしている友達も増えていた。

秋から冬になり、受験の緊張感が走る中、私は私立の推薦入学が決まったので、
人より早めに受験から解放された。

「もうすぐ卒業だよねぇ、 香織は誰かに告らないの?」

不意に友達にそんな事を聞かれる。
卒業が近いから、卒業前に想いを打ち明ける友達が結構いるらしい。
私はそんな好きな人なんていないから、関係ないよ〜って答える。

でも、友達の話によると、私は後輩に割と人気が高いらしく、卒業式の日に、ボタンやらなにやら
記念にもらいにくる子が多いんじゃない?とからかわれる。

あぁ、卒業式にボタンをください!っていう奴か。

関係ないなぁーと思っていたら、ふと坂本さんの顔が思い浮かぶ。

『まっさかねぇー、ボタンくださいって来ないよね。
 でも、そう言ってくれたら嬉しいかも・・・。
 なーんて、そんなことないっか・・・、でも、でも、もし・・・。』

あぁー、だめだめ、ばかばかしい。
その後の事を考えるのは辞めた。
だって、そう思って何も無かったら淋しいし、そんな事を期待している自分がなんか恥ずかしくなったから。

教室の中が受験から解放されて穏やかな空気になり、サイン帳や進路先の話しが飛び交っていた日々が過ぎ、
そして、卒業の日がやってきた。

それは3月にしては珍しく暖かく、良く晴れた日だった。


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