『 初恋 -西原side-
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夏になり、3年生の先輩が夏の大会で引退した。
これを期に、2年生が部活の中心になった。 私は自動的に部長になったけれど、なんか面倒だった。

私たちの代は、経験者がいなかったので全員中学からの初心者。
秋の新人戦の時、初めて大会用のメンバー選出があり、私は団体戦の大将になった。

大将とは言うものの、他の学校では大将クラスの人はたいがい経験者で、練習試合などでも、
私はなかなか勝てる機会はなくて、辛い事もあったけど、剣道は好きだった。

練習中、1年生の視線をやたら感じることがあったけど、その中で坂本さんの視線は
他の子と違う気がして、見られているのを意識して、つい張り切ってしまったり。

1年生が練習している時は、つい、坂本さんを目で追ってしまう。

なんでだろう? 初めて指導した後輩だから?

理由は良く解らないけれど、他の1年生とは違い、坂本さんだけ意識してる。

そのうち、部活外でも、坂本さんの事を意識するようになった。
学校の廊下ですれ違った時や、学校の登下校時に偶然に会った時、

坂本さんは部活の先輩だからだろうけど、少し恥ずかしがりながら元気に挨拶してくれる。
私はそれだけで少し心が弾んでしまい、無意識に笑顔で挨拶を返してしまう。

「香織ってさぁー、坂本さんだけかわいがってない?」

友達にそういわれるくらい、私の行動はわかりやすいらしい。

「だって、坂本さんって、妹みたいでかわいいんだもん。」

妹みたいにかわいいと言うのは本当の事。
でも、妹だったらこんなに気にするようになるのかなぁ? そんな疑問もあったけど
まっ、いっか!と楽天的な私はあまり深く考えなかった。

秋の新人戦は完敗で、悔しくて友達ともっと強くなろう!と誓い合い、一層練習に励んだ。

冬休みには、お正月明けの練習の時に、部室で鏡開きをした。
鏡開きというのは、みんなで練習の後にお餅を焼いてお汁粉を食べること。
普段は、1年生と交流がないけれど、どさくさに紛れて、坂本さんの隣でお汁粉を食べた。
恥ずかしそうにお汁粉を食べる姿は、やっぱり可愛かった。

あぁー、やっぱり、こういうのっておかしいのかな、でも、きっと私が一人っ子だから、
坂本さんが妹だったらいいなっていう気持ちだということにしておいた。


真冬の練習は寒くて辛かったけれど、やがて暖かい春がやってきて、私たちは3年生になっていた。
新しい1年生も入ってきて、にぎやかな人数になった。

去年私たちがしていた1年生への指導を、坂本さんたち2年生がしていた。
少し照れながら、ぎこちなさそうだったけれど、私たちもこうだったのかな?と思うと、
感慨深くなる。

と同時に、2ヶ月後の夏の大会が最後だということも頭の中に浮かんできた。


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