『 初恋 -西原side-
<<TOPに戻る

いつの間にか視界の中にあの子を探す。
すれ違うだけで心の奥で何かが弾む。
こう思ってしまうことはいけないことですか?



初恋 −西原 Side−



中学に入って2度目の春、1年生が入学してきて、すれ違いざまに知らない子から
挨拶されるようになった。
私も入学したばっかりの時は、上級生に挨拶することにとまどいを感じたけど、
逆にされる側になって、少し恥ずかしいような、照れるような。
それでも、自分が少し大人になった気がして、ちょっと嬉しい。

私は中学2年生になった。


「香織〜、今日は1年生の指導の日だって。」
「あーい、了解! で、結局何人になったの?」
「えっと、確か10人じゃない?」
「うちらと同じかぁ〜、 ちょうど良い人数だね。」

5月になり、仮入部を経て、新入部員が入ってきた。
今日は本入部をした新入生への指導の日。

私たち剣道部は、だいたい中学から始める子が多いので、基本動作からきちんと指導をする。
一番最初の基本指導は、顧問の先生が行って、それから2年生が少しずつ指導をして
姿勢や型を教えていく。3年の先輩方は夏の大会に向けての練習三昧なので、
後輩の指導は、2年生が担当するのが決まり事。

「はい、それじゃ、1列にならんで。」

知らない間に私は2年生のリーダにされていた。
あまり他のスポーツで目立った事はなかったけれど、不思議と剣道は私に合っていたのか
顧問の先生からは筋がいいと誉められることが多くて、それもあって、友達に無理矢理
リーダに祭り上げられてしまった。
といっても、今はまだ2年生の中での事だから、あまり関係はなくて、先輩からの連絡を
伝令する連絡係程度。

だから、この1年生への指導が私の初仕事?になるのかもしれない。

「それじゃ、竹刀を構えて。 2年生は、1年生に1人ずつ付いて姿勢を直してあげて。」

私も、どの子に指導しようかと1年生を見ると、何人かの子と目があった。
思わず、見つめられることが恥ずかしくなって、目をそらしてしまう。

だって、何かこう、期待に満ちた目で私を見てる気がして。

目をそらして他の子をみていると、列の端で、少し俯き加減の子が目に入った。

あっ、この子がいいかも。
恥ずかしそうに竹刀を構えているその子が、かわいらしく思えた。
私は指導をするために、その子の前に立った。


次のページへ>>