『 初恋 』
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話しをしていた先輩は振り返り、私のことに気づいてくれた。
私の前に来て、「なに?」と笑顔を返してくれた。


「そ、卒業おめでとうございます。」


私はうつむきながらそう言うことが精一杯だった。

「わざわざ声をかけてくれたのね、ありがとう。」

さっきより更に明るい笑顔を返してくれた。
それはとてもまぶしくて、私は直視することができなかった。

それを先輩は不思議に思ったのか、屈みながら私のうつむいた視線に目線を合わせて

「どうしたの?」

と言ってきた。 私は驚いて顔を上げると、先輩は私の頬に手を当てて

「私が卒業することで、そんなに泣いてくれるなんて、嬉しいなぁ。」

と笑顔のままで首を傾げていた。


先輩の笑顔が眩しくて、久しぶりに近くで見れたのが嬉しくて、そして旅立ってしまうのが悲しくて、
また頬を一筋の涙が流れ落ちていた。


「せ、先輩・・・。 ずっと、ずっと憧れていました。」


私は振り絞ってそれだけ伝えた。 最後だから、嫌われても良かった。

その時先輩がどんな顔をしているのか怖くて見ることはできなかった。



先輩は黙って、鞄の中の何かを探していた。

先輩の沈黙が怖くて、その場に立ちつくしていた。

探していたものが見つかったのか、私に背を向け、友達の所へ行った。

あぁ、呆れられたんだ・・・。そう思ってその場を立ち去ろうとしたとき、


「記念に一緒に写真を撮ろう!」


背を向けた私の肩に手を置いて、私を振り向かせて先輩はそういった。
先輩の優しさが嬉しくて、私は更に泣いてしまった。


「ほらほら、泣き顔で写真撮ると、後で見た時恥ずかしいよ?」


先輩は優しくそういって、私が泣きやむのを待ってくれた。
そして、先輩の友達が私と先輩との記念写真を撮ってくれた。

「写真できたら、送るからね。」

そう言って、先輩は握手してくれた。初めて握った先輩の手はとても暖かかった。



数日後、生徒名簿で私の住所を調べたのか、写真が送られてきた。
写っていた私の顔はまるで泣き笑いしているような変な顔だった。
先輩はさわやかな笑顔だったけれど不思議な事にカメラ目線ではなく、
その柔らかな視線は写真の中の私に向けられていた。


この感情が普通ではないと思ったけれど、この想いは先輩には迷惑だと思って我慢したけれど
私は先輩の事を好きになって良かった。きっとこの想いは忘れない。


この先別の人を好きになるかもしれないけど、このときの気持ちは絶対に忘れない。
これが、私の初恋だったから。初恋は一生に一度の事で、生涯忘れる事はないから。


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