『 初恋 』
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私の中学生活のほとんどは、この西原先輩への想いで占められていた。
部活は楽しかった。 私の剣道は全然上達しなかったけれど、同じ体育館の空間で、
先輩と同じ時間を過ごしていられるだけで良かった。


3年の先輩が引退してから2年生の先輩方が中心となった秋から、冬が過ぎ、春になり、そして
気が付くと、先輩の最後の試合である夏の大会がやってきた。


先輩の存在に気が付いてからもうすぐ1年になろうとしていた。
最後の大会を前に、先輩方の稽古の熱は上がり、真夏だというのに、一心不乱に練習をしていた。
少しやりすぎて、脱水症状を起こす人もいたけれど、練習が終わって帰る先輩たちの顔は楽しそうだった。


夏の大会が1日1日と近づくたびに、私の心は不安になった。
あと少しで先輩が引退してしまう。 あと少しでもう一緒に部活ができなくなる。
毎日見かけることもできなくなる。会えない日々になる。
そう思うと、悲しくて恋しくて、心臓が押しつぶされそうだった。



そして、夏の最後の大会の日がやってきた。
市内では決して強くはなかったけれど、先輩方は一生懸命戦った。
地区大会まであと1勝というところで、惜しくも負けてしまった。


西原先輩は泣きながら最後の整列をして礼をしていた。
私もそんな先輩を見ながら泣いていた。友達もみんな泣いていた。


大会の帰りには先輩方の顔はすがすがしい笑顔に変わっていた。
そして、その日で先輩方は引退した。



秋がきて、私たちが今度は大会に出るようになった。
先輩とは部活で会えなくなり、3年生と校舎が違うので、見かけることさえなかった。
悲しかったし、苦しかったし、寂しかった。 それでも、慣れるしかなかった。


冬がやってきて、そして3月。 先輩方は卒業を控えていた。
風の噂で、西原先輩は無事希望の高校に合格したことを聞いた。
きっと、高校に入っても剣道を続けるんだろう。


高校へと旅立つ先輩が、とても遠くに思えた。
はじめから近い人ではなかったけれど、もう部活の後輩という繋がりさえ切れてしまうような。
満足に話しをしたこともないし、先輩の事なんて何一つ知らなかったけれど、
それでも、先輩の事が好きで・・・、本当に好きで・・・、悲しいほど、苦しいほど好きだった。


そして、先輩の卒業の日がやってきた。
式で、先輩が卒業証書を受け取る姿を涙ながらに目に焼き付けた。


卒業式が終わると、卒業生が在校生に見送られた。
校門前には、卒業する先輩への贈り物を渡す姿や、記念にボタンをねだる光景があちこちにあった。


最後に先輩の姿を目に焼き付けようとしてあちこち探した。
西原先輩は、クラスメートらしき友達と立ち話をしていた。


最後だったから、今まで見ていることしかできなかったけど最後だから声をかけたかった。


「西原先輩・・・。」

少し離れた所から先輩に声をかけた。


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