『 Dummy:ダミー』
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後ろから久美を抱きしめたまま、長い時間が過ぎていた。

「久美、そろそろ帰ろうっか。」

「うん。」

ブランコに座る久美の前に移動し、手を差し出す。
久美はその手を取り、笑顔で立ち上がる。

その笑顔がたまらなく愛しくなって、衝動的にまた久美を抱きしめてしまった。

「け、ケイ・・・。」

「ゴメン・・・、もう少しだけ・・・。」

優しく抱きしめると、久美が顔を上げて私の顔をみつめて、
そして、私の肩に頭を寄せて、私の耳元で囁く。

「ケイ、大好き・・・。ずっと、ずっと私の傍にいて・・・。」

「ずっと、ずっと久美の傍にいるから・・・。」

体と腕に優しく力をいれて、全身で久美を抱きしめた。




しばらくして、手を繋ぎながら駅へと向かった。
電車に乗るときは、流石に人目があったので、手を離したけれど、乗っている間、鞄で手元を隠して
瞳を見つめ、手を握り合っていた。

ふと久美が明日からの事を口にした。

「しばらく、ケイとお兄ちゃんの噂が立つけど、私が守るからね。」

そんな、久美の健気な気持ちが嬉しくて、思わず顔がほころんでしまう。
そして、そんな久美の気持ちに応えたくて、一つの考えが頭の中に浮かぶ。

「久美、あのさ、篠崎先輩と恋人の振りをするのは今日1日って事になったんだけど、
 もうしばらく・・・、篠崎先輩が卒業するまで、このままで続けてもいいかな?」

「ケイ?! ど、どうして?!」

「噂はどうせもう明日から出るし、やっぱり私は久美を守りたい。」

「ケイ・・・。」

「久美の身代わりでいいの。 それで久美を守れるなら、久美が篠崎先輩と会えるのなら。」

「で、でも・・・。」

「大丈夫。 先輩や同級生からの嫌がらせがあっても、私には久美が居てくれるから。
 私は久美を守る。 だから、久美は私の傍に居て欲しいの、それだけでいいの。」

「ケイ・・・。  ありがとう・・・。」

久美はこっそりと繋いでいた手に力を入れる。 私もそれに答えて握り返す。

明日から、また私は、篠崎先輩と恋人のフリをする。

愛してる人のダミーになる。

その人を、一番愛してる人を守るために。



= おわり =

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