『 Dummy:ダミー』
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それから、喫茶店を出て、久美に連れられて、小さな公園に着いた。
ここは、初めて久美と篠崎先輩が会っている所を目撃した公園。

「ここでね、お兄ちゃんに会っていたの。 昔、この近所に住んでいて、良くここで遊んでた、懐かしい場所。」

日が傾き、人気がなくなった公園のブランコに久美が乗った。
漕がずに座っている久美は、嬉しそうな、楽しそうな顔をしている。

「小さい頃は、このブランコに乗るのも少し怖かったのに、今乗るとこんなに小さいなんてね。」

無邪気な顔をして乗っている久美の後ろに回り、ブランコの両脇の鎖に手を掛ける。
私が後ろに立っていることを確認して、久美が仰け反りながら私に背中を寄せ、もたれかかる。

「ケイ、一つだけ教えて。」

「なに?」

「ケイは、お兄ちゃんの事、好き?」

「はぁ?」

突然、久美は突拍子もない事を口にしたので、思わず変な声を上げてしまった。

「今回の事、私の為にお兄ちゃんに恋人のフリをお願いした事は解ってるの。
 でも、ケイが本当は、お兄ちゃんの事、気になってるのかなぁ・・・って思っちゃって・・・。」

何を言うのかと思えば、久美は、私が篠崎先輩の事を、好きなのではないかと勘ぐっている。
そんな事、ある訳ない。 だって、私は久美が好きなのに・・・。

久美を見下ろしても、頭のてっぺんしか見えないので、久美の表情が読めない。
でも、そんなことを言い出した久美の声が少し震えていたのは気のせいじゃない。

篠崎先輩から、久美が私の事を好きだと聞いたけど、それが事実かどうかは分からない。
先輩の勘違いかもしれない。 でも、それでも・・・。

「久美、そんな事絶対にないから。」

私は衝動的に、背後から久美の首に手を回し、肩を抱きしめた。

「け、ケイっ?!」

「篠崎先輩は、素敵な人だとは思うけど・・・、」

「けど?」

抱きしめて、久美の前に交差した私の手に、そっと久美が手を重ねる。

「私は・・・、私は、久美が好きなの、ずっと前から・・・。」

ビクンと、久美の体が震えたのが解った。 篠崎先輩が言っていた事は勘違いだったのかもしれない。
久美は何も言わない。 しばらく沈黙が続いた。

耐えられず、私がそれを破った。

「ご、ごめんね、久美、変な事を言っちゃって。 い、今の忘れて・・・。」

そういって、体を剥がし、回していた腕を外そうとしたとき、力強い手で遮られた。
手を引き寄せられ、背後から久美の顔をのぞき込むような体勢になる。
久美が顔を上げると、ちょうど私の眼前に久美の顔のドアップがあった。

「ケイ・・・。」

吐息のような言葉を頬に感じる。うっとりとした表情で、久美が私を見つめるのが解る。

「久美・・・。」

私が久美の名を呟いたと同時に、腕を更に力強い力で引っ張られ・・・

「!?っ」

久美に唇を奪われた。
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