『 Dummy:ダミー』
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「ご注文はお決まりでしょうか?」

私一人になった事を確認して、店員が注文を取りに来た。

「珈琲を・・・。」

店員は黙って頭を下げてそのまま席を外す。

なにやってんだろう・・・。
結局、篠崎先輩との恋人ごっこは、1日で終わった。

篠崎先輩は、久美が私の事を好きだと言っていたけれど、そんな実感は、何一つない。
先輩の言葉を疑う訳じゃないけれど、信じがたい。

それでも、もし、もしそうだったら・・・。 でも・・・。
期待と不安を繰り返し、溜息を突きながら、店の窓から空を見つめていた。

店の中がとても静かに感じる。 だから、注文した珈琲が目の前に置かれたことも、
店に、新しい客が一人入ってきた事にも気付かなかった。

「ケーイっ」

「えっ!!」

聞こえるはずのない声が聞こえて、思わず視線を篠崎先輩が座っていた向かいに合わせる。

「久美!! ど、どうしてここに・・・。」

目の前には、ここに居るはずのない久美が座っていた。
その表情は、どことなく、少し怒っているように見える。

「ケイ、私に黙ってこんな事するなんて、酷くない?」

「えっ?? な、何が??」

「もう、ケイが何をしようとしていたか、全部お兄ちゃんから聞いたの。」

「そ、それじゃ・・・、も、もしかして・・・。」

「そっ、ケイがここにいること、お兄ちゃんからメールで連絡もらったの。」

「えっ!?」

篠崎先輩は、全てを久美に話していた??
ということは、もう全部ばれている。 私が久美に黙って、久美の身代わりになろうとした事が。

「ごめん。」

バチンっ!

「いたっ!」

俯いていたら、久美が私の額にデコピンして来た。

「もう、あれだけ私には隠し事しないでって、ケイが私に言ったのに。 もう、こんな事しないで。」

「久美・・・。」

「でもね、正直言うと、ケイがあんな事しようとしてたって聞いた時、嬉しかった・・・、ありがとう。」

少しはにかんだ笑顔で、久美はそう言った。
その久美の言葉と笑顔が嬉しくて、私も釣られて笑顔で答えた。

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