『 Dummy:ダミー』
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「あの時、実をいうと、僕はショックでした。 兄である僕の事よりも、友達に嫌われる事を恐れている。
 僕は、その友達が久美にとって、どれだけ大切な存在の人なのか、正直解りませんでした。
 でも、それから久美はあなたとの思い出をいくつも話してくれました。

 そして、あなたに会って欲しいと強くせがまれました。
 だから、あなたに会うまで、僕は久美がそこまで大切な友達はどんな人なのか、そんな興味もありました。

 あの日、あなたと会って、あなたも久美の事を 本当に大切な友達と思っていることを知ったので、
 安心しました。
 そして、カラオケに行った時、あなたが歌っている姿を見ている久美の顔を見て
 久美が好きな相手は、もしかして吉沢さんなのでは?と思いました。」

「ど、どうして??」

「あなたの歌を聴いている時の久美の表情が、兄である僕さえドキッとするほど綺麗だったから。」

「えっ?」

「あれは、恋する人を見つめる表情だと、僕はあの時確信しました。
 それから、考えてみると、久美があなたの事を“メグミ”と呼ぶとき、妙にぎこちない感じがしましたし。」

「で、でも・・・。」

「だから、今回、あなたが久美のダミーになる提案をしてくれて嬉しかったのと同時に
 僕は不安がありました。」

「えっ?」

「あなたは、久美のダミーになってくれるほど、久美の事を大事に思ってくれている。 それは嬉しかった。
 でも、久美がこの事実を知ったら、きっと悲しむ事になります。」

「そ、それは・・・。」

「吉沢さんが久美のダミーと知る前に、僕とつき合っているという噂を耳にすると、きっと今以上に傷つきます。
 それに、事実を知った後でも、それが久美の身代わりで吉沢さんが傷つく事であったとすれば、尚更です。」

「でも・・・、それでも・・・、私は久美がこれ以上傷つくのを見ていられないから・・・。」

久美がいじめや嫉妬で傷つく姿を見たくない、でも、私のせいで傷つく姿なんて想像できなかった。

「今回の事を、吉沢さんが僕に切り出してくれた時、僕は、あなたに聞きました。
 どうして、久美の為にそこまでしてくれるのかと。」

「はい。」

「その時、“大切な親友だから”と、あなたは答えてくれました。」

「はい・・・。」

「久美と同じ気持ちを持って欲しいとは言いません。
 いままで通り、久美を大事な親友だと思って欲しいんです。
 今回、僕が久美の気持ちをあなたに伝えたことで、久美への態度を変えないでください。 お願いです。」

「もちろんです。 そんな事はしません!」

「ありがとう。」

篠崎先輩は、今日一番の優しい素敵な笑顔を私に向けてくれた。

「また3人でカラオケに行こう。今日はこれで失礼します。」

「篠崎先輩、すみませんでした。」

「それじゃ!」

篠崎先輩は、何も注文をしないまま、店を出ていった。

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