『 Dummy:ダミー』
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久美とは中学の時からずっと一緒にいるのに、そんな話しを聞いたことはない。
この間の篠崎先輩との事を打ち明けてくれたときも、何もないと笑顔で答えてくれたハズ・・・。

あっ・・・、でも、あの時は、私に黙って誰かとつき合うはずがないと言っただけ?
ってことは、つき合ってはいないけれど、想っている人がいるということ?

「それから、しばらくして、僕は久美に隠しても無駄なこと言って、本当の事を聞きました。
 そしたら、本当は好きな人がいるっていいました。 ずいぶんと前から片思いしてる相手がいると。」

「そ、そんな・・・。」

久美にずっと前から好きな人がいるなんて・・・。
でも、篠崎先輩は実のお兄さん、嘘を突くはずがない。
ずっと好きな人がいるというのは、もしかして、私と出会う前からの事で、言い出せなかった?

頭の中を色々な考えが駆けめぐる。それでも、久美に好きな人がいるという事実はきっと変わらない。
ただ、私は自分の中で、久美が私にそれを言えなかった事情を模索して、自分が傷つかないように
言い訳を探しているだけにすぎない。

私が混乱しているのを見かねて、篠崎先輩が優しい声で話を続ける。

「それとなく、相手はどんな人なのか、なんていう人なのかを聞きました。」

久美に好きな人がいて、その人がどんな人で、なんていう人なのかなんて、もうどうでも良かった。
優しい声でも、そのまま続けられる話題が、私にはとても辛かった。
それでも、その話を止める事ができなかった。辛くても、久美の好きな相手がどんな人なのかを
知りたいという欲求が、頭の片隅にあったのは事実だったから。

「何度も聞くと、やっと名前だけを白状しましてね・・・、 相手の名前は、ケイという人だと。」

「ケイさんっていう人なんですか・・・。」

どこで知り合った人なのだろう。 中学の同級生の中にそんな名前の男の子はいただろうか?
頭の中で、久美の男性関係を知ってる範囲で考えてみる。

「吉沢さん、まだ解りませんか?」

俯いたまま、黙って考え込んでいる私を見て、笑いながら、そして少し呆れた口調で声を掛けられた。

「何がですか?」

思わず顔を上げ、篠崎先輩が何をいっているのか解らず、キョトンとした目をしていると、

「あなたの周りで、そう呼ばれ続けている人に心当たりありませんか?」

そう言われ、自分の周りで、そう呼ばれている人がいるかを思い浮かべてみる。
ケイという名前を呟いて考えていた時、不意に頭の中で、“ケイ!”と久美が私のことを呼んだ。

「えっ? えぇぇぇぇぇーーーーーっ?! わ、私??」

「やっと解りましたか?」

「そ、そんな事ないです!! そんなハズありません!! 久美が私の事を好きだなんて。」

久美の片思いの相手が私だという事実を、喜ぶ前に、否定する事しかできなかった。
そんなはずない。 私は久美の事が好きだけど、久美が私の事を好きであるはずがない。
だって、私たちはずっと一緒にいたかけがえのない親友なのだから。

「久美が、あなたに僕とつき合っていると誤解された時、久美は激しく動揺していました。
 どうしよう、友達が誤解をしていて、怒ってしまった・・・と。

 僕は、兄弟であることがバレて、久美と会えなくなる事がイヤだったので、誤解のままでも
 いいじゃないかと久美に言いました。

 でも、久美は泣きながら、そんなのイヤだと、嫌われたくないと僕に訴えました。
 それで、本当の事をその友達に話したいと縋り付いてきました。 その友達というのが、あなたでした。」

篠崎先輩は、少し目を伏せながら、その時を思い出しているようだった。

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