『 Dummy:ダミー』
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「吉沢さん、今日で終わりにしよう。」

「!?っ」

店に入り、向かい合わせに座っていた時、沈黙を破った先輩の一言が、
今の自分の心を見透かされたような気がして思わず言葉を飲んでしまう。

「吉沢さん、僕は久美の事はもちろん大事だけど、久美の大事な親友のあなたの事も大切なんです。」

「先輩・・・。」

「それに、自分で気が付いていないだろうけど、吉沢さん、学校を出てからずっと泣きそうな顔をしてる。」

「えっ・・・。」

「久美の為に、ありがとう。 今日の事で、吉沢さんには迷惑をかけてしまうと思う。
 本当に申し訳ない。 でも、久美にあなたがいてくれたように、あなたにも、久美がいるから。」

「・・・。」

自分が言い出した事なのに、篠崎先輩をを巻き込んでしまった上に気を使わせてしまった。
自分が情けなくなり、先輩の顔を見ることができず、何も言えずに、ただ俯いてしまう。

「ただ、今回の事とは関係ないんだけど、一つ聞いてもいいですか?」

「なんですか?」

「久美は、僕の前では、あなたの事を、“メグミ”さんと呼んでいますが、普段は違う呼び方をしていませんか?」

唐突に、久美の私への呼び方について聞かれた。
確かに、篠崎先輩と初めて会った時、久美は私の事を“メグミ”と呼んでいた。
そのことは私も違和感を感じたけれど、その後は、特に気にも留めていなかった。

「えーっと、普段久美は、私の事を、“ケイ”と呼びますが、それが何か?」

「やはり、そうでしたか・・・。」

そう言うと、篠崎先輩は、俯いて一人で何かを納得したように呟いた。

「先輩? どうしたんですか?」

私の呼びかけに、先輩は顔を上げ、私に優しい笑顔を向けた。

「何年かぶりに久美と再会したとき、僕は久美がとても大人びて見えたんです。
 もちろん、数年も会っていなかったのだから、高校生になれば、昔と違ってくることは解っているつもりです。
 でも、久美の場合、高校生になった事とは別の何か違った雰囲気を感じたんです。」

「違った雰囲気?」

「数年会っていなかったとはいえ、僕と久美は何十年も一緒に過ごして来た兄弟です。そのくらいは解ります。
 僕は、久美が恋をしているのでは?と思い、久美に直接聞きました。」

「はいっ? く、久美が恋をしてる?? そ、そんな話しはないハズです!!」

「まぁ、僕も半信半疑だったんですが、久美は、その後顔を赤くしながら、左の耳をいじりながら、トボケました。
 でも、それで解ったんです。 久美には好きな人がいることが。」

「ど、どうして!! 久美は否定したのに、どうしてそれが嘘だって解るんですか?!」

「久美は、嘘をついたり、ごまかしたりするとき、左耳をいじる癖があるんですよ。」

「そ、そんな・・・。」

久美に好きな人がいる。 唐突に篠崎先輩に断言された事を、理解できなかった。

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