『 Dummy:ダミー』
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朝、罪悪感からか、久美と目が合わせられなかった。
どうしたの?と聞かれて、なんでもない。と答えるけれど、その声がすでに上擦ってしまう。
何か変だと久美は気付いたとは思うけれど、それ以上は何も聞いて来なかった。

学校に登校して、久美と教室の前で別れる。
授業を受けるけれど、午後が近づくにつれ、徐々に授業の内容が頭に入らなくなる。

お昼、久美とお昼を一緒にしてる時も、久美に何を話しかけられても上の空。

「ケイ、今日ちょっとおかしいよ。 どうかしたの?」

とうとうそう言われるけれど、何でもないと押し通す。
久美は、口を尖らせて、不満そうな顔をするけれど、何も打ち明けられる訳がなかった。


そしてとうとう6時限目の授業も終わり、放課後になった。

昨日、篠崎先輩と打ち合わせた通り、約束の時間まで教室で待つ。
久美には、今日は用事があると伝えてある。

約束までの時間は、たった30分なのに、半日以上の時間を待っているような気がする。
胸がだんだん詰まってくる。 胃が握りつぶされるような痛みが走る。 ぐっと堪える。

そうして、約束の時間の10分前になった時、窓の外から騒がしい声が聞こえる。
耳を澄ませば、キャーとか、ワーとか、そういった女性特有の黄色い声。

(来た・・・。)

鞄を持って、校門へ向かう。
覚悟しているとはいえ、足が少しずつ震えるのが解る。

一歩一歩踏み出すたびに、重圧がのしかかる。 それでも、これは自分が言い出したこと。

昇降口を出て、校門へ向かうと人だかりが目に入る。
その中心に、一際目立つ男性の姿が目に入る。
目を逸らさず、真っ直ぐにその人だかりに向かって歩く。

近づくにつれ、その人だかりの多さを目にして篠崎先輩の人気に凄さを実感する。
久美は何も言わなかったけれど、一体どのくらいの人に嫌がらせをされたのだろう。
そう思うと、そう思うと自然と手に力が入る。

あと5メートルというところで、人だかりの中心人物と目が合う。
そして、その人は片手を上げ、私に向かって手を振る。

「メグミ!」

その声で、人だかりの視線が一斉に私に向けられる。

「篠崎先輩。」

先輩のアドリブで初めて名前で呼ばれて思わず顔が赤くなる。

「ちょっとごめんね。 待ち人が来たから。」

人垣を超えて、私に真っ直ぐ近づいてくる篠崎先輩は、とても素敵で、
普通の女子高生なら間違いなく恋に落ちるだろう。

「帰ろう。」

さりげなく私の鞄を持ち、私の手を引っ張って先輩は人垣を割って進んでいく。
背中で、悲鳴に近い生徒の声が聞こえる。

かまわず手を引きながら進む先輩は、人がいなくなったのを確認して手を外してくれた。
少し後ろから先輩の後をついて歩く。 沈黙が続くなかで、脳裏に久美の悲しそうな顔が浮かぶ。

そして、結局何も話しをしないまま、この間先輩と話をした喫茶店に2人で入った。

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