『 Dummy:ダミー』
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篠崎先輩と、翌日の夕方から一緒に帰る事を打ち合わせる。
久美の噂を1日でも早く消す為に。

そもそも、久美と篠崎先輩の噂は、1度だけの目撃証言が広がっただけのもの。
それをうち消す為には、もっと大勢の人前で、篠崎先輩と一緒に居るところを見せつければいい。

ただでさえ、篠崎先輩は有名人。 学校近くで一緒にいれば、否応なく人目につく。

噂は放って置いても勝手に広がり、ただ一緒に帰るだけでも、誇張された話しになっていく。
何を言われてもかまわない。 何を想像されてもかまわない。
久美さえ守れればいい。

「吉沢さんは、どうしてここまでしてくれるんですか?」

冷めかけた珈琲の最後の一口を飲み干して、篠崎先輩は静かな口調で私に聞いてきた。

(久美が好きだから・・・。)

心の中で即答するけれど、口からでた言葉は別の物。

「久美が親友だからです。」

「ありがとう。」

優しい笑顔を浮かべながら先輩が心からのお礼を口にする。

その後、喫茶店で先輩と別れた。

帰り道、屋上で隣りに座った久美の顔を思い出す。

久美が本当の事を知ったら怒るだろう。
こんな事をしても、久美が喜ぶハズがないことも解っている。

久美が怒ってもいい。 呆れてもいい。

それでも、久美を守れればいい。 久美が傷つかなければそれでよかった。

この気持ちを伝えることができないのなら、せめて身代わりに、ダミーであればいい。

自分の想いの全てを掛けて、明日から覚悟を決める。

帰る途中、久美から携帯にメールが入った。

“今日はありがとう。 ケイがいてくれて良かった。
 ケイが傍に居てくれるから、明日からも大丈夫。
 明日からも改めてよろしくね♪        
 P.S.この事、お兄ちゃんには内緒ね?     ”

篠崎先輩と会う前にこのメールをもらっていたら、決心が鈍った?

否。

例えそうだとしても、久美を守りたい気持ちは変わらない。

(久美、ゴメン・・・。)

携帯を閉じながら、贖罪の言葉を飲み込む。

明日から、どうなるかなんて解らない。

それでも、今晩寝れば明日は来る。

夜、布団に入っても、その日はなかなか寝付けなかった。

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