『 Dummy:ダミー』
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その日の放課後、篠崎先輩と初めて会った喫茶店に一人でいた。

しばらくして、篠崎先輩が店に入ってくる。

「遅くなって申し訳ない。」

「いえ、私も今着いたばかりですから。」

ゆっくりと座り、篠崎先輩は珈琲を注文し終わると、視線を真っ直ぐ私に向けてきた。

「話があるというのは、久美の事?」

「はい。」

一瞬沈黙が流れる。
どう切り出せば良いのか躊躇してしまい、言葉がうまく出ない。

「久美の様子がおかしかった原因は、もしかして僕に関係する事じゃない?」

ずばり的を得た答えに、思わず顔を上げてハッとしてしまう。

「やっぱりそうか・・・。そんな気がしていたんだ。でも、僕は久美の傍にいてやれない。それが歯がゆくて仕方ない。」

テーブルの上に置かれた篠崎先輩の拳が、ギュッと力が入るのが解る。
この人も、久美を守りたい。
でも、それができないから苦しんでいる。

久美を守りたいという想いは一緒のハズ。

「先輩、お願いがあります。 今日はその話しをしにきました。」

「お願い?」

「率直に言います。 私とつき合ってください。」

単刀直入に切り出した。

「吉沢さん?」

「実際に、つき合うという訳じゃなく、私とつき合うフリをしていただけませんか。」

先輩は、力強くて真っ直ぐな視線を私にぶつける。

「それで、今久美が抱えている問題の解決になりますか?」

私が切り出した提案を聞いて、今久美の身の上に起きていることを先輩は察知したらしい。

「はい。」

「でも、それでは、今度は吉沢さんが・・・。」

「私は大丈夫です。」

「でも・・・。」

「久美は、篠崎先輩と会えなくなること恐れて、今は一人で耐えているんです。
 私が、先輩とつき合う事になれば、それを我慢する必要はなくなります。」

「しかし・・・。」

「ただ、久美には、このことは秘密にしてください。」

「吉沢さん・・・。」

「私も、久美を守りたいんです。」

この言葉を聞いて、篠崎先輩はしばらくの沈黙後、「わかりました。」と深い溜息と共に返事を口にした。

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