『 Dummy:ダミー』
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周りが目に入らず、咄嗟に久美に駆け寄る。

上級生に向かい、どうしてこんな事をするのかと問い質す

「ふん、あんたなんて、篠崎先輩にふさわしくないわ! 身の程を知りなさい!」

そう言うと、2人の上級生はトイレから出ていった。

「久美!!」

声を掛けると、唇を噛みめ久美は俯いていた。

休み時間が終わるチャイムが聞こえた。

久美の手を取り、屋上へと連れていく。
授業どころではなかった。 

途中、水道でハンカチを濡らし、屋上についてから、腫れた久美の左頬にそっと当てる。

「気持ちいい・・・。」

ハンカチを当てている私の手の上から、久美は自分の手で濡れたハンカチを押さえつける。

「久美・・・。 一体何があったの?」

久美に手を押さえつけられ、心臓がドクンと鳴るけれど、今は久美の事を知るのが先決だった。

「あぁ、さっきの? なんでもないよ。」

「知らない上級生に因縁着けられて、なんでもないって事はないでしょ。」

「女の嫉妬って醜いねぇー。 怖いこわい。」

「久美っ!!」

話をはぐらかそうとする久美に苛つき、思わず大きな声を上げる。
私の大きな声に、ビクンと反応し、重ねていた手を降ろして久美は俯いてしまう。

「久美、この頃様子がおかしかったのは、このせいなの?」

久美は俯いたまま何も言わない。

「こんな事されたの、今日が初めてじゃないんでしょ!! どうして何も言ってくれないの?」

「お兄ちゃんと会えなくなる事に比べれば、こんなこと、なんでもないから。」

「それでも、私に言ってくれたっていいじゃない。 どうして隠していたの?」

「だって・・・。」

「なんで??」

「そういったら、ケイが心配するの解っていたから。」

「そんなの、当たり前じゃない!」

「ケイにも、お兄ちゃんにも心配かけたくなかったから。」

「バカ・・・。 久美が一人で傷つく方が辛いに決まってるじゃない・・・。」

「ごめん。」

私と久美は、その日授業を一緒にサボり、何も言わずにただ、屋上から空を眺めていた。
久美の隣りに座っていると、触れていた肩が熱く感じた。

「ケイって、暖かいね。」

そう言って、久美は私に寄りかかり、頭を私の肩に乗せる。

「お願いだからもう隠し事はしないで。」

「うん。」

小さな声が、私の肩口から聞こえた。

久美は、私が守る。

その日の夜、私は篠崎先輩にメールを入れた。

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