『 Dummy:ダミー』
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実の兄弟と会いたくても会えないというのは、どんな気持ちなのだろう。
私は2人の気持ちを思うと、胸が違った意味で痛くなった。

久美が篠崎先輩に抱きついたりしていたのは、久しぶりに会えた兄に甘えていたからなのだ。

「そうだったんですか・・・。 すみません、2人を変な関係に疑ってしまって。」

「いえいえ、そう思ってもらう方が、僕としては違和感なく久美に会えるから別にかまわなかったのですが、
どうしても久美が、吉沢さんにきちんと説明したいと相談してきまして。」

「えっ?!」

「久美は、吉沢さんが僕と久美が恋人同士だと思われるのがイヤだったみたいですよ。 フフフ。」

思わず、久美の顔を見ると、真っ赤な顔をして俯いている。

「お兄ちゃん、もう、それは言わないでって言ったのに〜!!」

うつむきながら、抗議の声を上げている久美を思わず可愛いと思ってしまった。

そっか、そうだったんだ・・・。 兄弟、実の兄弟だったんだ・・・。

思わず、ホッして、今までの緊張が解けてしまい、体中の力が抜けてしまった。

「だいたい、け、メグミもメグミよ! 私が内緒で誰かとつき合うなんて事あるわけないじゃない!!」

「そ、それは、そうだけど・・・。」

「でも、吉沢さん、くれぐれも口外しないでください。 世間に知られると僕と久美はもう会えなくなりますから。」

「もちろんです。 約束します。」

「ありがとう。 それと、一つお願いがあるんですが。」

「はい? なんでしょう?」

「吉沢さんのメールアドレス、僕に教えてもらえませんか?」

「はぁー?」

「久美が何かあった時、僕に連絡して欲しいんです。」

「あぁ、もちろんかまいませんよ。 これです。」

私は自分の携帯を開き、電話番号と携帯アドレスを篠崎先輩に教え、逆に篠崎先輩の連絡先も聞いた。

「ねぇ、せっかくだから、これから3人でカラオケでもいかない?」

嬉しそうに久美が突然言い出す。

「えっ? 私はいいけど、せっかく2人で会ってる時間なのに、私がいて邪魔じゃない?」

「いやいや、、一緒にカラオケに行こう! 久美はカラオケが大好きでね。 言い出したら聞かないんだ。」

「お兄ちゃん!!」

「おっと、ごめんごめん!」

「あははは!!」

私たちはそれから3人でカラオケに行って、思い切り騒いだ。
篠崎先輩は、かっこいいのに優しくて面白くて、その上気配りが細かくて、モテるのが良く解る気がした。

久美との帰り道に、ふと今日を振り返る。今日は、私の失恋記念日のハズだったのに、予想外の時間が過ごせて楽しかった。
久美とは、まだ一緒にいられる、それだけで嬉しかった。 これで問題が無くなり、全ては落ち着くと思っていた。
でも、これをきっかけに、この後また別の問題が起きるとは思っていなかった。

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