『 Dummy:ダミー』
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「こんにちは」

笑顔でやってきた篠崎先輩。
私はあまりの衝撃に、イスから落ちそうになる。

あぁ、こんか決定的な状態で、私は失恋をするのか・・・、そう思うと、流石に自分が可愛そうになる。
久美も、親友の気持ちをもう少し察して欲しいもんだと思わず自嘲気味な笑みがこぼれる。

「こちら、私の親友のメグミ。」

久美が私の事をメグミと言っている。 その違和感に思わず我に返る。

「あぁ、メグミさん、いつも久美から話しを聞いています。 初めまして。」

もう呼び捨ての関係なのか・・・と、そんな事でも気持ちがまた落ち込む。
でも、久美が親友と紹介してくれているのだから、良い親友を演じなければならない。

「初めまして。 吉沢です。」

私は全神経を総動員させて笑顔で篠崎先輩に挨拶をした。

「メグミ、あのね、篠崎先輩はね・・・、」

普段の呼び方ではないので違和感を覚えつつも、私は久美の言葉を遮り、自分から話しを切り出した。

「久美も人が悪いなぁ〜。 いきなり篠崎先輩に会わせるなんて。
だったら、もう少し準備とかしてきたのに・・・。 でも、そんな必要ないっか!」

「ケ、あ、あの、メグミ、話を聞いて・・・」

「篠崎先輩は、うちの学校の憧れの的の人だもんね。 私にも言い出せなかったよね、ごめんね。
でも、こんな素敵な人が彼氏なんて、ほんと羨ましいなぁ〜。」

動揺を悟られないように、口が勝手に思いもしていないことをベラベラと紡ぎ出す。

「け、あっ、メグミ!! ちょっと聞いて!!」

「久美、少し落ち着いて。 吉沢さん、僕が全てを話します。」

私と久美の話がかみ合っていないことを見かねて、篠崎先輩が落ち着いた声を発した。

「あっ、は、はい。」

「ごめんなさい。」

篠崎先輩の声で、私も久美も落ち着きを戻す。

久美の口から真実を告げられるより、篠崎先輩からの方が、私も潔く諦められる気がした。

「吉沢さん、これから言うことは、出来れば他言無用にお願いします。
久美の親友である、あなたと信用して、全てを話します。」

篠崎先輩とつき合うということは、大変なんだな・・・と漠然と思う。

「もちろんです。 久美は私の大切な親友ですから。 誰にも口外することはありません。」

大切な親友・・・、良くこんな言葉でた物だと自分でも呆れるけれど、久美が幸せであるなら、
もちろん今から聞かされる事を口外するつもりなどなかった。 それだけは本当の気持ち。

「ありがとうございます。 久美の親友があなたで良かった。」

篠崎先輩に笑顔を向けられるのが辛い。
横で、静かに笑顔を浮かべながら話を聞いている久美の顔を見るのが辛い。

突き落とすなら早く谷底へ落として欲しかった。 心臓を徐々に真綿で締め上げられるような思いがした。

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