『 Dummy:ダミー』
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久美は、小走りに駅へ向かい、帰る方向とは別のホームに向かっていた。
どこへ行くのだろう?? まさか・・・。

自分の予感が外れて欲しいと心で念じながら、同じホームに立ち、階段の影から久美を見ていた。
電車が来て、久美も私も乗り込む。

1つ、2つと駅を乗り越し、5つ目の駅についた時、久美は電車から降り、私も降りた。

駅の改札を抜け、久美は携帯を取り出し、誰かと話しをしている。

相手は、篠崎先輩?

ジリッと胸の奥が焦げる。

久美、どこへ行くの? 誰かと会うの? その相手は、篠崎先輩なの?

久美が歩き出す。 私は初めて来た駅で、久美を見失わないように、気付かれないように後を追う。

駅前通りから、徐々に道を入り込み、物鈴かな住宅街へと進む。
そして、住宅街に囲まれた小さな公園にたどり着く。

公園の中のベンチに、一人の学生の姿が目に入った。
久美にもその姿が目に入ったのか、小走りで駆け寄り、そして、その背中に抱きついた。

(!!)

抱きついた久美に驚いて振り返ったその学生の横顔は・・・、篠崎先輩だった。

バサッ。

久美が待ち合わせしていた相手が篠崎先輩だった事実、背中に抱きつくほどの親密さを目の当たりにして
持っていた鞄が手から落ちた。

もう見たくないのに、これ以上知りたくないのに、私の目の前に残酷な光景が映し出される。
久美が篠崎先輩の隣りに座り、その腕に絡みつきながら満面の笑みを浮かべて話し掛ける姿。
相手の篠崎先輩も、優しい笑顔を浮かべながら、久美の頭を優しく撫でる。

目の前の現実は、私の中にあったわずかな希望さえもうち砕いた。

力が入りすぎて、指の爪が手のひらに食い込んでいた。 その爪が手のひらの皮膚を突き刺さり
血がにじみ出した時、自分の意識が戻った。

これ以上、この光景を見たくなかった。
手のひらを広げ、血がうっすらと滲んだ手の平を見て、自嘲気味な笑みがこぼれる。

私は何を期待していたのだろう。
久美だって普通の女子高生。 恋をすることは当然。

いつか、こんな日が来る事は解っていた。 でも、この日が来ることを考えたくなかった。

よりによって、相手はうちの女子高の憧れの的の先輩。
文句のつけようがなく、私がどうやったって太刀打ちの出来る相手でもない。

久美のことを諦めるには、打ってつけの相手。

落としたバックを拾い上げ、空を見上げる。

不思議と涙は出なかった。

それから、どこをどうやって知らない道をたどったのか解らないけれど、無事に私は家に帰った。

明日、久美とは会いたくなかった。 今日現実を突きつけられ、すぐに久美と会う事が辛かった。
少しだけ、少しだけ気持ちを整理する時間が欲しい。

そう願いながら、私は帰宅後そのままベッドに潜り込んだ。

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