『 Dummy:ダミー』
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「気持ちいいね〜♪ あぁー、こんな日は学校さぼりたくなるねぇ。」

学食で買ったパンを食べ終わって、屋上の柵に寄りかかりながら、久美は大きく伸びをしていた。

「あ、あのさー、久美に聞きたいことがあるんだけど・・・。」

「ん? なぁーに?」

ニコニコして近づく久美に、聞く事を思わずためらってしまいそうになるが、
自分の中に生まれたひとかけらの疑念を消滅させるために、意を決して切り出した。

「あのさ、今朝クラスの話題を耳にしたの。 久美が昨日、聖陵の篠崎先輩と一緒にいたって。」

今朝の聞かれたことを話題にした途端、久美の顔から笑顔が消える。

「そんなはず、ない・・・よ・・・ね・・・。」

否定の答えを求める私の言葉が、久美の真顔を眼前にして、小さくなる。

「あ、あの・・・。」

そんなハズないじゃん!と笑い飛ばされると思っていたのに、私から視線を外し、
俯いている久美から漏れるような声が、今朝の話題が事実だったことを確信させる。

「く、久美・・・。 ほ、本当の事なの??」

「あ、あの、その・・・、篠崎先輩は・・・。」

「そ、そっか・・・、本当だったんだ・・・・。」

「け、ケイ!! あ、あのね、これには、訳が・・・・。」

「そ、そう・・・・。」

もう久美の言葉は、耳には入ってこなかった。
久美が篠崎先輩と昨日会っていたことは事実。 どんな理由があろうと、それは間違いなかった。

「ケイ、あのね・・・」

=キーンコーン・カーンコーン=

「チャイムだ・・・、 教室に戻ろう。」

「ケイ!!」

久美の呼び声を背中にしたまま、私は屋上を後にした。



午後の授業は、全く頭に入らなかった。
頭の中は、久美の事で一杯で。

久美と篠崎先輩。
まったく接点がない2人が一緒にいる理由なんて・・・。 そんなの1つしかない。

でも、でも、もし・・・、久美が言っていた訳というのがあったなら、
私が想像しているような、間柄じゃなかったら・・・。

小さな小さな、微かな期待が胸に浮かぶ。

帰りに、久美から、訳を聞こう。 それからでも遅くはない。

6時限目の授業が終わってから、私は久美の教室へ向かった。
すると、久美が小走りで教室を飛び出していった。

何か嫌な予感が走り、私は考える間もなく、気付かれないように久美の後を追った。
 
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