『 Dummy:ダミー』
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10分ほど経って、淹れたばかりの紅茶とケーキを持って部屋に戻る。

「お待たせー、あっ・・・。」

部屋に入ると、久美は私のベッドに寄りかかりながら、目を閉じて静かに寝入っていた。
起こさないように、静かに部屋のドアを閉め、テーブルに紅茶とケーキをそっと置く。

寝入っている久美の隣りにしゃがみ込み、そっと顔をのぞき込む。
いつも笑顔が耐えない久美の寝顔はとても新鮮で、思わず魅入ってしまう。

肩にかかるくらいの真っ直ぐで綺麗な久美の髪が、うっすらと久美の顔にかかっていた。
久美が起きないように、そっと優しく髪を梳く。

「んっん・・・・。」

起こしちゃったかな?と一瞬焦って、瞬時に体を離す。
私の危惧をよそに、久美はまだ静かに寝入っている。

無意識にそっと久美の頬に手を添える。
手のひらから、暖かい久美の体温を感じる。

(久美・・・。)

本能的に、衝動的に、私は顔を久美に近づけ、
小さくてほんのりピンクのその唇に、そっと自分の唇を寄せた。

触れるだけの、一瞬のキス。

ズキン!!

胸が握りつぶされるほどの痛みが全身に走る。

その痛みで意識が覚醒し、自分が何をしたのか思い出す。

!?!?!!

久美にキスをしてしまった。
寝ている久美に、無意識にキスをしてしまった自分に驚き、飛び跳ねるように久美から離れる。

耳元で自分の心臓の鼓動が聞こえる。

痛い・・・、胸が痛い・・・。

あまりの胸の痛みに両腕で体を抱え込む。
この胸の痛み、触れただけのキス。

私は初めてこのとき、久美に恋してることを自覚した。

その後、しばらくして久美は起きたけれど、私は恥ずかしくて久美の顔を見ることが出来なかった。
そんな私の様子が少し変だと久美は笑っていたけれど、寝ている間にキスをしてしまった罪悪感に囚われていた。


それから結局同じ高校に進学して、中学時代と同じように一緒に学校に通って、一緒にお昼を食べて。
帰りも一緒に帰って。 親友として、同じ時間を過ごしてきた。

久美には、自分の気持ちを知られたくない。 知られたらきっともう一緒に居られないから。
一緒に居られなくなるくらいなら、気持ちが伝わらなくても良い。
今は、親友として、隣りに、傍に居られればよかった。


「ケイ? けーい?? どーしたの?? ぼーっとして。」

「ごめんごめん、なんでもない。 お昼さぁー、今日天気がいいから、パン買って屋上で食べない?」

今朝の噂を“そんな事ある訳ないじゃーん!!”って笑って否定してくれることを信じて、久美を屋上へ誘った。

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