『 Dummy:ダミー』
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「ケイ! お昼食べに行こ!」

お昼のチャイムが鳴ってから、いつもと同じように、久美が私をお昼に誘いに来る。
久美は、私の名前が恵(メグミ)なのに、わざわざ“ケイ”と呼ぶ。

いつもと変わらない久美の様子を見て、朝聞かれた事はやはり人違いなんだと安心する。
そんな私の心内を知らずに、“今日は何食べようっかなぁ〜。 ケイは何にするの??”と
のんきに聞いてくる。

(まったく・・・、私の気持ちを何にも知らないで・・・。)

でも、その無邪気な笑顔を向けられると、私は何も言えなくなる。
だって、私は久美の事が好きだから。

この気持ちに気付いたのは、中学3年の時。
進学先をどこにするか悩んでいた頃、
ずっと一緒だった久美と別の高校になったらと考えたら、ギュッと胸が痛くなった。
最初、この胸の痛みがわからなかった。

そのうち、一緒に居る時は、痛みがなくなるけれど、
一緒でない時、久美の事を考えるとまた痛みだす事に気付いた。

久美の笑顔を見ていると、胸がジンと熱くなったり、
久美が他の友達と親しくしている姿を見ると胸がジリジリと焦げ付いたり。

これはなんだろう?
こんな、良く少女漫画とか、学園ドラマとかに出てくる恋の表現みたいな感情・・・。

恋?

恋?!?!

これって、恋? 恋なの???

まさか・・・、恋だなんて、そんなハズない!!
きっと、これは友達に対する独占欲なんだ! そう思うようにした。
だって、久美に恋するなんて、自分と同じ女の子を好きになるなんて、ある訳がない!
私は自分の気持ちをそうやって無理矢理押し込めようとした。

でもある日・・・。

一緒に受験勉強しようと久美が言い出して、土曜に家にやってきた。
その時、私の母親はたまたま友達と出かけていて、私と久美2人だけ。

でも、別に男の子と一緒にいる訳じゃないんだから、2人だけといっても、何がある訳でもなくて。
ただ、一緒に部屋で勉強をしていたのだけど。

「あぁ〜、少し疲れた〜!! ケイ、休憩しようよー!」

集中して2時間も勉強をしたので、私も久美も少し疲れて。
久美は、私のベッドに寄りかかって、大きく伸びをしていた。

「んじゃ休憩しよっか。 ちょっと待ってて、お茶とケーキあるから持ってくる。」

「ありがとう! 甘い物食べたかったんだ♪」

私は台所でケーキを冷蔵庫から出して、紅茶を入れようと電子ポットのボタンを押した。
いつもなら、沸騰したお湯が勢い良く出てくるハズなのに、何も出てこない。

あれ??

良くみると電源からコードが抜けている。
お母さん、出かける時にいつもの癖で切っていっちゃったんだ・・・、もう・・・。
仕方なく、少し時間はかかるけれど、コンロに薬缶をかけて、お湯を沸かす事にした。

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