『Cross roads』
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「えっ?」
「えっ?」

立ち上がろうと、和美に背向け離れようとした瞬間、私の手が、和美に掴まれていた。
手を掴まれた私が声を上げたのと同時に、和美もまた声を上げていた。

「ど、どうしたの?」
「あっ、いや、ど、どうしたんだろう。 ごめん、なんでもない。」

和美自身、どうしてこうなったか解らない表情。
でも、私の手を無意識に掴んだ和美の気持ちに私は揺り動かされる。

慌てて離そうとした和美の手を、今度は私が握りしめる。

驚いて和美が顔を上げ、私の顔を真っ直ぐと見つめる。


ドクン。


こめかみに、自分の心臓の鼓動が聞こえる。
和美から目が離せない。 和美の視線を逸らしたくない。

抱きしめたい。
思い切り、抱きしめてしまいたい。
空いた方の手が、和美を抱きしめようと動き出そうとしたとき、

ダメっ!!!

私の自制心がそれを制止した。


「和美、携帯の電源はいれておいてね。 何かあったらいつでも連絡すること。」

しばらくの沈黙の後、私はそう口にするのが精一杯だった。

「あっ、う、うん、わかった。」

私の雰囲気に飲まれたのか、和美はうつろな返事をする。
私は静かに握っていた手を離し、黙って玄関に向かった。

「ちゃんと週末までおとなしく寝ていてね。」

私は気持ちを切り換えて、和美にそう告げると玄関を出た。
背後でガチャリと鍵がかかる音がする。

はぁ〜っ。

エレベータに乗りながらため息を突く。

さっき、いきなり手を掴んだ和美の顔を思い浮かべる。
和美はどうして、手を掴んだんだろう?

あんな顔をされると、あんな目で見つめられると・・・。
離れたくなくなってしまう・・・。

帰りながら和美のその時の顔が頭からなかなか離れなかった。

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