『Cross roads』
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「今部屋に入ると風邪を移すかもしれないから。」

笑顔を見せてくれたと思った途端に、うつむきながら和美がそう口にする。
嫌がられている訳ではないと解るのだけれども、今ひとつ和美の心が読めない。

和美が見せてくれた笑顔は、きっと私に会えてうれしかったんだと自惚れてみる。
俯いた表情からは、何を思っているのかは解らないけれど、どこか恥ずかしげな表情な気もする。
そうとなれば、意地でも部屋にあがってみせる。

「大丈夫よ、私は頑丈だから。それに、部屋の中が荒れてるのなら、片づけもしなきゃね。」

私はこみ上げる喜びを押さえながら和美を見てそう言うと、
和美はドアの鍵を開けて部屋へ通してくれた。

部屋に入ると空気があまり良くない感じがする。
数日、部屋を閉めっぱなしにしていたからだろう。

部屋に入るやいなや、部屋の換気をするために窓を全開にして部屋の換気をする。

そして、寝っぱなしだと思われるベッドを綺麗にしてあげたくなり、

「少し待っていてね。 そしたらベッドを綺麗にするから。」

そう言って部屋の片づけとベッド周りを整えた。
ちょうど、無理矢理押し込められたと思われる布団乾燥機があったので、ベッドにセットする。

和美はその間、自分が買ってきたものを冷蔵庫にしまい、パジャマに着替えていた。
私は部屋の片づけを少しする。といっても、だいたい片づいているから特にすることはない。

部屋の換気が一通りできたところで、窓を閉め、布団乾燥機でベッドがカラッと乾燥し、
暖まった事を確認してしまい込んだ。

「ほんとごめんね。 ありがとう。」

和美はパジャマ姿で下を向きながら感謝の言葉を口にする。

和美の体温を測ろうと、顔を近づけると、驚いて体をのけぞらせる。
思わずそんな和美が可愛らしくて、吹き出しそうになるのをこらえ、額に私の額を合わせる。

まだ額からじんわりと熱があることを感じる。

「真熱がまだあるみたいだね。 おとなしく寝てなきゃダメだよ。」

和美は何も言えずに呆然と私を見ていたので、我慢できず、とうとう吹き出してしまう。

「今更なに緊張しているの? ほらほら、早く病人は布団に入っておとなしくしていなさい。」

和美の頬に手を当てて、自然に和美に笑顔を向ける。
すると、和美は俯いてしまい、その頬から流れ落ちる物があることに気が付いた。
和美が泣いている??

「だ、だいじょうぶ? 体がまだ辛い? 苦しいの?」

窓を全開にしたことで、体調が悪くなってしまったのかと激しく動揺してしまう。
私のそんな動揺をよそに、和美はゆっくりと呟く。

「ちがうよ、そうじゃなくて、嬉しくて。 朋美の優しさが本当に嬉しくて。 ありがとう。」

そう言って顔を上げた和美は、泣きながら笑顔を浮かべていた。

どきん・・・。

私の心臓が大きく一跳ねする。
あぁ・・・、ダメ。 こんな表情されると自分の気持ちが沸騰してしまう。

「そ、そんな、今更そんな事いわないでよ。 もう、急にびっくりするじゃない。」

私は自分の顔に血が上るのを感じながら、そう言うのが精一杯だった。

「そんなことより、ほら、早くベッドにもどって。 お昼まだでしょ? 食べられそうなもの今作るから。」

照れ隠しのように私は和美をベッドに入らせる。
これ以上見つめられたら自分が何しでかすか解らない。
私は気持ちを切り換え、台所で、和美の為に料理し始めた。

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