『Cross roads』
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着替えを済ませて、脱衣所を出ると、和美がかいがいしく、台所で何かをしている。

ガス台の前に立っていた和美が、じっと私を見つめている。

な、なんだろう・・・、何か思い出しちゃったのかな・・・。

私はドキドキしながら和美が何を言うのか待っていると、ガス台にかけてあった薬缶が沸騰する音がする。

和美は慌ててガスを切ると

「昨日の残りみたいなものだけど、とりあえず朝食にしよう。」

そう言って、居間に行くよう私に告げる。
私は、何を言われるのかが不安で、足を抱えながら小さくなっていた。

朝食の支度をしながら台所と居間を往復する間、和美は何も言わない。
それが返って不安になる。 私は想わず俯いてしまう。

テーブルには暖かい湯気が立ちこめるコーヒーと、トースターに食パン、昨日のお総菜が並べられ
パンをトースターに入れながら、和美は私の顔を見ずにこう言った。

「ねぇ、朋美。 昨日私、朋美に何か悪いことしたのかなぁ?
 今朝、気が付くと居間で寝ていたじゃない?
 なんでここで寝ていたのか解らないんだけど、どうしてか知ってる?」

和美が居間で寝ていた理由は私も覚えていない。 というか、私が聞きたいところなんだけど。
でも、和美は昨日の事をあまり覚えていないってこと? 

「昨日のこと、どこまで覚えてるの?」

私は驚きを隠せず、ストレートに聞いてみた。

「えぇーっと、どの辺かなぁ、3本目のワインを開けたところまでは覚えているんだけど。」

3本目を開けたところ・・・。 ということは、私が和美の事を打ち明ける前。
つまり、少なくても私が強引にキスをした事は覚えていない?

私は思わずホッとして、顔がゆるんでしまった。

「そ、そうなの? 私のいつもの愚痴を、酔っぱらっていて覚えてないのね?」

いつもの調子で毒づいてみる。

「ご、ごめんよぉ〜、だって、朋美があんなにワイン買ってくるなんて思ってなかったんだもん」

申し訳なさそうな口調で、和美は笑顔で答えた。

良かった・・・。 ホっとしたような、少し残念なような。
でも、今はまだ和美との関係を壊したくない。 だから、これで良かったんだと思う。

ふと、安心すると髪の毛がまだ乾ききっていない事に気が付いた。

はっ!! 乾かしてかなった!!

私は慌てて髪の毛を渇かしに洗面台へと飛び出した。

私の慌てた姿を見て、和美は思わず笑いをこぼしていた。

和美が笑っている。 私は和美の側で笑顔をみることができる。

当たり前のようなそんな日常が、今の私にはとてつもなく幸せな事だった。

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