『Cross roads』
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「でも、それも、もう今回で終わりにすることにしたの。」

私はワインを大きく一口飲み、意を決して力強く言葉にした。


「それだけ長く思い続けた気持ちを簡単に終わりにすることなんてできるの?」

冷ややかな和美の声が静かな部屋に響く。
私のいままでしてきた事に対する軽蔑が込められているような、冷たく強い口調。

呆れられても仕方ない。 私はいままで和美をずっと騙してきた。
私は和美に今嫌われても、呆れられても、突き放されても仕方ないと覚悟をする。

大きく息を吸い込み、私は昨日の出来事と今後の想いを口にした。

「昨日ね、今つき合っていた相手と別れてきたの。
 こんな代償行為の恋愛なんて、いつか必ず限界が来るから。
 今までみたいに、その人を忘れる為に次の相手を捜すような事を終わりにしようと思ったの。

 私はあの人の事を今でも変わらず好きだし、困らせたくないし、関係を終わりにしたくない。
 だから、この気持ちは伝えない。

 だけど、あの人を好きでいる間はずっと想い続けていたいって思ったの。

 私があの人を好きでいる事は私の自由だから。 だからこれからも好きでいようって思うの。
 今でも私、あの人だけを愛しているから。この想いはやっぱり止められないの。」

和美・・・。 私はあなたへの想いを絶つことができない。
でも、迷惑をかけるつもりはないから、もう2度と今までのような過ちはしない。

だから・・・、だからお願い。 せめて、あなたのことを好きでいることを許してください。

私はいままでの想いを込めて、和美に笑顔で答えた。


暗闇のせいで、和美がどんな表情なのか解らない。
呆れたのなら、軽蔑したのなら、いっそのこと突き放して欲しい・・・。
そんな自嘲的な笑いをこらえながら、私は俯いていた。

私の横に、いままで無かった人の存在を感じる。
顔を上げると同時に、なにか柔らかく暖かい感触に頭が包まれる。

和美が、私の頭を優しく抱きしめてくれていた。

「大丈夫。朋美はその人のことずっと好きでいていいんだよ。もう無理することないから。
 辛かったね。気づいてあげられなくてごめん。話しを今までで聞いてあげられなくてごめんね。」

涙がこぼれる。

和美・・・、和美・・・。

いいの? 和美の事を、ずっと想っていてもいいの?

今までのこと、許してくれるの?

私は、まだ側にいてもいいの?

今までの苦しみから解放されて、癒されて、許されて、声にならない声を上げながら嗚咽した。

和美・・・、 和美・・・・。

泣き続けている間、ずっと、ずっと、和美は優しく私を包み込んでくれていた。

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