『Cross roads』
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「最初は自分の気持ちが分からなかった。 一緒にいて楽しい、安心する、ただそれだけだと思っていたの。
 でもある日、その人に恋人ができたことを知らされて、私は初めて自分の気持ちに気づいたの。

 あぁ、私この人のことを好きになっていたんだって。その人の横にいるのが自分じゃないって解って
 初めて、私じゃない誰かがあの人の隣にいることが嫌だって言うことで気づいたの。

 そう思った時にはもう遅くて。でも、私はその人との関係を壊したくなかった。
 だから、恋人ができたことを心から祝福したわ。心では、嫌、行かないでって叫びながら。」

私は和美に打ち明けながら、あのころの事を思い出していた。

「その人にとって、私はいい仲間、そんな風にしか思ってなかったと思う。
 幼なじみとか、腐れ縁とか、そういった一緒にいて当たり前みたいなごく自然な関係。
 でも、近すぎたから、一番手が届かない人なんだって思い知ったの。

 自分の気持ちを打ち明けようって何度も思ったわ。
 でも、その人の笑顔を向けられると、何も言えなくなった。

 あの人の無邪気な笑顔を2度と見られなくなるかと思うと、耐えられなかったから。

 だから、決めたの。 自分の思いは封印するって。
 私もあの人とは別の誰かを捜して、お互いにいい友達を持続させようって。

 別に、好きでもない人を無理矢理恋人にしようなんてつもりじゃなかったの。
 あの人以外の誰かを愛せるようになりたかった。 だから他の人と恋をしようって思ったの。」

そう、私は和美への想いを和美自身に知られることが怖かった。
大好きな和美の無邪気な笑顔を失ってしまうことが怖かった。

近すぎた。 あまりに、私と和美は近くにいすぎてしまった。
こんなにも近くにいるのに、一番遠い人。

失いたくない・・・。 だから、私は気持ちを打ち明けず、和美の側にいることを選ぶことにした。

相変わらずあの妄想に苦しめられる日々だったけれど、和美を失う事を思えば耐えられた。

和美との距離を誤らない為に、私は別の相手とつき合うように努力をした。
失わない為に、気付かれない為に。

親友のままで、一番心許せる相手を失わない為に。

私の告白を、和美は黙ってワインを傾けながら聞いていた。
その表情から、何を思っているのか、何を感じているのか解らない。
それでも、私はワインを一口ずつ飲みながら、話しを続けた。

「でも、ダメね。 忘れられない人がいるのに新しい人とうまく行くはずがなかった。
 最初はそれでも、いつか忘れられるって思ったけど、いつも相手が気づいてしまう。

 気づかれるとその場しのぎの関係なんて、いつも簡単に終わってしまった。
 その度に、和美に愚痴っていたの。 口では、振られた相手への愚痴を言っていたけど
 本当は違うの。いつも、私自身の諦めの悪さにうんざりして自分に呆れていたの。

 だから、自分自身が解らなくなるくらいに酔いたかったの。」

和美への気持ちがある限り、誰か他の人を好きになることなんてあり得なかった。
それでも、それでも、和美への気持ちを抑える為に、和美への想いを忘れる為に、
私は他の人に抱かれることを選んだ。

和美に彼氏ができる前は、どうしてつき合いがうまくいかないか解らなかった。
でも、自分の気持ちに気付いてからは、うまくいかない答えが解ってしまった。

相手との関係が終わりを告げるたびに、冷え切った心を温めて欲しかった。
許しを乞いたかった。 汚れた私でも、まだ側にいてくれる和美を感じたかった。

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