『Cross roads』
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「ありがとう。 和美はいつも優しいね。 無愛想なのに本当はすごく優しいんだよね。」
私は、注がれたグラスを揺らしながらぽつりと呟く。

「それって誉められている気がしないんですがねぇー。ってか、もう酔ってきたの?」
少し呆れ気味に、和美は答えて、拗ねたように自分のグラスのワインを飲み干して、
2本目の白ワインを開けた。

そこからしばらくは、たわいもない話しをした。
仕事や上司の愚痴とか。最近みた映画の話しや、ドラマの話し。 私が興奮しながら話す事に
和美は穏やかに答える。 こんなたわいもないやりとりが、とても心地よかった。
そして、時計がもう深夜の1時を回っていることに気が付いた。

気が付くと、ボトルの3本目が空になっていた。 3本空けているけれど、
実際は、和美は1本分も飲んでいない。
私は、かなりお酒に強いらしい。チャンポンにしなければ、ワインはボトルで2本から3本は開けられる。
それに比べて和美は、弱い訳ではないけれど、強くもない。
白ワインから飲み始めたけれど、そろそろ限界に近いかも。

和美に酔いが回っていることを認識した上で、私は4本目のワインを開ける。
私が一番好きな赤のフルボディ。赤はドイツよりもフランス産の方が渋みがあり、私は好きだった。

赤いワインがグラスを満たしていくのを見ていると、その深い赤い液体の揺らぎに心が触発される。
私にも酔いが回り始めている事が解る。


『心あらずって感じだよね。 他に好きな人がいるんじゃないの?』

目を閉じると、いままで何人もの相手に言われ、心を見透かされたように投げかけられた台詞が頭に甦る。

そして目を開けると、そこには、酔いが回りながらも優しい瞳の和美がいる。
グラスの中で、たわみながら揺れる深い赤い液体は私の心。
血よりも黒く深い赤が、私の体を衝動的に駆り立てる。

「あのね、私、ずっと昔から好きな人がいるの。」

ついにその一言を口にしてしまった。 今までずっと内側に秘めていた想いと秘密を。

「それで?」

和美はそっけなく、平然とその先を促すように言う。

「何度も諦めようとしたの。だから他の人ともつきあったりもしてきた。」

和美の返事はこのときなかった。 どうしたのだろうと和美の表情を伺うと、
今まで穏やかな表情だったのが、一変して、眉間にしわを寄せ、鋭い目線で私の顔を見つめていた。
沈黙の後、和美は強い口調で言葉を投げつけてくる。

「朋美、一体何をいっているのか解らないよ。 酔いすぎて何を言っているのか解らなくなっているの?」

「んじゃ、酔った戯言だと思って聞いて。」

叱責するような和美の口調と、鋭く変わった視線から逃れる為に、私は部屋の電気を消し、
グラスを持ちながら、ベランダ側の窓に移動して外を見つめた。

切り出してしまった以上、話さないわけにはいかない。
私は、意を決して、全てを打ち明ける覚悟をした。

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