『Cross roads』
<<TOPに戻る
和美の部屋のドア前で、チャイムを鳴らす。

ガチャリと、鍵が開いた音がすると、ドアを開け、

「お邪魔しまぁーす♪」

と荷物を抱えながら部屋に入ると、和美が普段着姿で迎えてくれる。

「はいはい、いらっしゃい。 えっ? 随分と買い込んできたねぇ。」

私の手にしている荷物の量を見て、和美が少し驚いた声で言う。
そんなに買ったつもりはないけれど、明日は休みだし、和美の部屋に来ることになった時点で
泊まる気だったから、ついつい多めに買い物をしてしまった。

「今日はとことん飲もうね♪」

買いすぎた荷物を笑顔で照れ隠しする。

「はいはい、そうだと思ったよ。まっ、適当に座って、もうお腹ぺこぺこだよ。」
半ば呆れた表情だったけれど、和美は玄関の鍵を閉め私を迎え入れてくれる。

「うん、食べる物もいっぱい買って来たから。食べよ! 食べよ!」
私は荷物を抱えて部屋にあがり、テーブルの上に買ってきたもの急いで並べた。

4本買ってきたワインのうち、まずは甘口のドイツの白ワインで乾杯。
青いガラスでできたその瓶には、聖母マリアのラベルが貼ってあり、あまりワインが好きではない和美も
これは飲みやすいといって、好んでくれたので選んだ。

乾杯の1杯を2人で勢い良く飲み干し、テーブルの上の総菜に手を出す。
蒸したてのシュウマイ、車エビのエビチリ、トマトとモッツアレラチーズのマリネ、生春巻き、
季節の野菜と果物のサラダ、地鶏の南蛮漬け、ほうれん草とチーズのキッシュ。

どれも、気が付くと和美の好きなものばかり。
和美は自分の好物ばかりが並んでいることにあまり気付かず、よっぽどお腹が減っていたのか、
次々と箸を伸ばしては口に放り込む。満足そうに食べるその表情が、いつもよりも幼く見えて、
思わず、顔がほころんでしまい、私もつられておかずを口にしていく。

おかずと一緒に白ワインの3杯目を飲み干した時、唐突に和美が切り出してきた。

「今日は何があったの? 急に押し掛けてきて。」

「ん? 何が?」

「こんなにお酒買い込んで、今日のヤケ酒の理由はなんなの?」

んー、やっぱりバレてるのか、と思わず苦笑してしまう。
私が強引にお酒を飲みに誘ったり、お酒を抱えて上がり込む時は、和美に甘えたい時。
和美にそばに居て欲しい時。 今日もそうだった。

「あっ、やっぱり解った?」

「当たり前じゃない、何年ダチやってると思ってんの?」

「そっか、そうだよね。 ごめんね、いつもこんな時つきあわせて。」

「いいよ、今に始まった話じゃないし。明日は休みだし、好きなだけ飲んでいきな。」

「ありがとう。 迷惑ついでで申し訳ないけど、今日泊めてね?」

「最初からそのつもりだったんでしょ。ったくしょうがないなぁ。」

和美はそう言いながら、私のグラスに一杯分より多めのワインをつぎ足し、1本目のボトルを空にした。

次のページへ>>