『Cross roads』
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結局、その時の相手とは別れる事になり、私の失意は変わらなかったけれど、
和美が側にいてくれたことで、私は救われた。

その日を境に、和美は週末に私を部屋に泊めてくれるようになった。
私が落ち着くまで、一人でいるとまた淋しさが込み上げてくることを心配してくれたのだと思う。

和美は、私に変に気を使う事もなく、特別かまうことはしなかった。
私も、自分の部屋のように、好きにテレビを見たり、本を読んだりした。

お互いにお互いの好きな状態で時間を過ごす事はとても心地よかった。
和美が同じ部屋にいてくれると言うだけで、心が静かに満たされる。

同じ時間を過ごすことが多くなり、そして私が失恋の痛手を気にしなくなった頃、
和美はいままでの友達とは違う、かけがえのない存在になっていた。

そして、和美と出会って、2年の月日が過ぎていた。


和美の部屋に泊まりに行くと、夜は同じベッドで一緒に寝る。
無防備な和美の寝顔を見ていると、その顔に触れたくなってしまう衝動に駆られる時がある。
あの日、私の涙を拭ってくれた優しい手をもう1度感じたい。
和美が私を包んでくれる暖かさを、もっと直に、体全体で感じたい。

そう思いながら、その気持ちが何を意味するのかは、まだ気付いていなかった。



(もう、あれから8年か〜。)

リクルートスーツを見ながらすっかり思いに老けてしまった。
時計を見るとまだ時間は1時間以上ある。 私はデパート内の喫茶店で時間を潰し、
20時を過ぎたころ、和美に電話を入れた。

「もしもし、和美? 仕事終わった?」

「うん、今終わって会社を出たところ。」

ちょうどいいタイミングだった。 私は和美と夕食を食べる約束を切り出す。
「実はさー、今外で買い物していたの。ご飯まだでしょ? 一緒に食べない?」

「いいよ。 どこへ行けばいい?」
和美の返事を聞いて、どこで夕食を食べるか考えていなかった事に気付く。
でも、今日はゆっくりと話をしようと思っているから、できれば落ち着ける場所がいい。

「ねぇ、和美は明日何か予定ある?」

「いや、特に予定はないよ。」

「それじゃ、和美の部屋行っていい? 食べるもの買って行くから部屋でゆっくり食べようよ。」
私は和美の部屋で、ゆっくり話がしたかった。 誰にも邪魔されない2人になりたかった。

「朋美は食べより飲みの気分なんじゃないの?
 まぁ別にいいよ。それじゃ、適当に何か買ってきて。先帰って部屋を片づけてるから。」

和美の返事を聞いて一安心する。 

「うん、それじゃ、あとで行くね♪」


思わず弾んだ声で、電話を切った。 私は急いでデパ地下へたどり着き、
和美の好きそうなお総菜と、白ワイン2本と赤ワインを2本買い込み、和美の部屋へと向かった。

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