『Cross roads』
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第一印象はあまり良くなかったけれど、そのうち和美の事がだんだん解るようになった。
無愛想だと思っていたけれど、それは間違いで、和美は不器用なんだと解った。

学生時代の事の話を聞いても、あまり友人関係が広い方ではなかったらしい。
まぁ、友達づきあいなんて広ければいいってもんじゃないけれど。

和美はとても不器用だけど、一緒に過ごす時間が長くなってくると、素直で純粋な人だと解る。
社交的とはいえないけれど、自分の考えをしっかり持っていて、それでいて
相手の立場や物の考え方をしっかりと受け止める。
相手の目線になって物事を考えられる人だから、とても懐が深い。

人見知りが激しく、あまり積極的に誰かと関わることはしないけれど、
知り合った相手とは、最後まできちんと接する人。そして、とても人情に厚い。

昭和一桁にいるような、そんな古風な雰囲気を持っている。
気難しいように周りから見られているけれど、和美と一緒にいると、いつも落ち着ける。

いつからだろう、和美の側にいることがこんなに当たり前になったのは。
和美の側にいることは、とても、とても心地よかった。
こんな気分になれる友達に出会ったのは初めてだった。

そしてあの日、私は和美に助けられた。

あれは、入社して1年過ぎた頃、私はつき合っていた恋人に二股を掛けられた事を知った。
相手の事を心底愛していたので、私の心はうち砕かれ、自暴自棄になってしまった。

会社帰りに、一人で行きつけのBarで酔いつぶれていた時、和美がそこに現れて
私を自分のマンションに連れて連れ帰った。

いろんなお酒を一気に飲んだせいか、悪酔いし、和美の部屋では暴れたり、嘔吐したりで
謝りきれないほどに迷惑をかけてしまった。

翌日、目を覚ました時、和美は私の手を握りながら、ベッドの下に座り込んで寝ていた。
何があったのか解らないまま体を起こすと、和美も目を覚ました。

私は自分の悪態を思い出し、ひたすら和美に謝ったけれど、和美は何も言わずに頭をなでてくれた。
そして、

「何があったのかは聞かないけれど、一人であんな飲み方をしちゃダメだよ。
 今度何かあったときには、私がちゃんとつき合うから、一人でもう無茶な飲み方をしないこと。」

そういって優しく微笑んでくれた。
私は愛する人を失った悲しみを思い出したのと、心細い時に和美が側にいてくれた嬉しさとで
泣き出してしまった。 和美は悲しそうな顔をしながら、私をベッドに寝かしつけ、

「思いっきり泣いていいから・・・。」

そういって、毛布をかけてくれた。
私はひたすら泣き続けて、そして泣き疲れて眠りについた。

目が覚めると、ベッドの脇に和美が座りながら本を読んでいる姿が目に入った。
まだ明るい時間だとは思ったけれど、窓にはカーテンが引かれていたので、部屋の中は薄暗かった。
和美は私が寝ている事に気を使い薄暗い部屋の中で、ベッド脇のスタンドの光だけで本を読んでいた。

ほんのりした明かりで本を読む和美の姿を私はじっと見つめていた。

私の視線を感じたのか、和美は私の方を見て、本を支えていた片手を私の目頭に優しくあてて
まだ乾ききっていない涙をそっと拭いながら、「目が覚めた?」と優しく呟いた。

その手の温かさ、薄明かりの中にうかぶ優しい表情の和美。

その時、私の胸の中が、じんわりと暖かいもので満たされた。

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