『Cross roads』
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昨日とは違い、晴れた1日だった。
今日は金曜日。

和美と一緒に飲みたい気分だった。
そして、定時の終わりを告げるチャイムの放送がかかる。


「和美、今日何時頃あがれるの?」

私はいつものように、何気なく和美を誘うつもりで声をかける。

「悪い、まだ仕事が片づかないから、先あがっていいよ。」

肝心の相手は、つれない返事をする。

「えぇー、また一緒に帰れないの? せっかくご飯一緒に食べようかと思ったのにぃー。」

こっちの意図とは反した返事に、不満を思わず口にしてしまう。

「ほんと悪い! この埋め合わせは今度するから。」

和美は申し訳なさそうな声をあげる。

「そういって、前の分もまだ埋め合わせしてもらってないよ? もう・・・。」

和美が悪い訳ではない事は解っている。 だけど、なんとなく、どうしても一緒に飲みたい気分。
そんな思いから、また違う形の不満を口にしてしまう。

「わかった、今度こそ、好きなものごちそうするから。 あっ、電話だ、ごめん! またね。」

いろんな思いが交差している最中、仕事の電話を取った和美を見ると、
自分の都合を押しつけようとしていた事が恥ずかしくなり、申し訳なく思った。

電話をしている和美に、お詫びがてらに厨房においてあるコーヒーを紙コップにいれて
黙って和美の机の上に置いて、私は職場を後にした。

会社の外に出ると、街の中のいろいろな騒音に包まれる。
見上げても、空はほとんど見えない。

18時を過ぎているのにまだ空は赤く明るい。

どうしようかなぁ・・・。
和美の残業は2時間ほどで終わるのだろうか。

昨日の出来事がふと頭でよみがえる。 まだ暑さが残る秋口なのに、急に全身が寒くなる。
どうしても、どうしても、和美と話をしたかったから、もう少し待っていることにした。

時間を潰すつもりで近くのデパートに入る。
洋服を見ていると、ふと学生用のリクルートスーツが目に入る。
懐かしい。 そういえば、この時期には、私はもう内定をもらえたけれど、
大学の友達はまだ走り回っていたっけ。

リクルートスーツの形は、何年経ってもあまり代わり映えしないものだなぁーと思う。
そういえば、和美と初めて出会った時は、お互いリクルートスーツで、
緊張のせいなのか、暑さのせいなのか、和美がものすごい不機嫌そうな顔だった事を思い出す。

初めて和美に会ったのは入社試験の面接の時。
正直、その時は無愛想な人だなぁーって思ったっけ。

入社式の時に再会したけれど、その時同じ女性が和美しかいなくて、
この人とうまくやっていけるかなぁ?と思ってしまった。

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