『 約 束 』
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私と唯と潤は、大学の同級生だった。
唯と潤は、幼なじみだった。

大学で私は唯と友達になり、気が付けばいつも3人で一緒にいた。
私は高校生の時から自覚していた同性愛者で、唯の事を好きになっていた。
でも、唯は幼なじみの潤の事をずっと好きだった。

自分の想いが通じる事はないと解っていたけれど、私は唯の隣にいるだけで幸せだった。
楽しかった。いつも3人で出かけ、遊び、そして過ごした時間、いつまでも続いて欲しかった。

大学を卒業し、3人とも社会へ出てしばらくして、潤は私に告白をしてきた。
その時、唯を潤に取られない嬉しさと、唯が幸せになれない悲しさに襲われた。

私は潤の告白を断り、その変わりに唯の気持ちを彼に伝えた。
彼は最初、唯の事は妹みたいにしか思えないと拒否したが、
そのうち私が唯へ特別な感情を抱いていることに気が付いた。

『唯の事を好きなのか?』

私は黙って頷いた。

それからしばらくして、満面な笑みを浮かべた唯が私に打ち明けてきた。
潤とつき合うことになったと。

私はすぐに潤を問いつめた、どういうつもりで唯とつき合う事にしたのかを。
彼は真剣な顔で、同情でつき合った訳じゃない、私への気持ちとは違う形だけど
ちゃんと唯を愛してると答えた。

私は唯が彼とつき合う事になったのは苦しかったけれど、
自分には、これで良かったと納得させた。

それから数年が過ぎ、潤と唯は結婚することになった。

結婚式の前夜、私は潤と話をし、一つの約束を交わした。

『ずっと、唯を支え、守り続けること。』

約束が守れなくなった時は、私が唯を奪いに来ると。

その日の翌日、私は結婚式には出ず、その日を最後に、2人の前から姿を消した。

そして、20年の月日が立ち、潤が私の居場所を私の身内から聞きつけ手紙を出して
今日の再会に至った。






「唯の事、昔も今も変わらず愛している。 でも、残念な事に、僕たちの間に子供はできなかった。
 僕は、唯を支えて守ってきたけれど、でも、唯には何も残してあげることができなかった。」

「潤・・・。 解った。」

「ありがとう。」

彼は私の返事を聞いて、静かに目を開けた。
そして、穏やかにゆっくりと微笑んだ。



夕方、私は唯と20年ぶりの再会を果たした。
病室で再会した唯は、驚きと嬉しさのあまり、涙を流しながら私を強く抱きしめた。

「明日奈・・・。 明日奈なのね!! ひどいわ、いままで1度も会いに来ないで。」

「ごめん、唯、ごめんね。」

「積もり話しもあるだろう。 私は少し寝るから2人で話してくるといい。」

潤は、そう言うとベッドに体を横たえ、静かに目を閉じた。


私と唯は部屋を出て、病院内の喫茶店で話をした。
20年ぶりに見る唯は、あの頃とは違い、落ち着いた雰囲気を持った女性になっていた。

「ほんと久しぶりね。」

私を見つめながら、静かに唯が呟いた。

「そうだね。」

私も唯と目を合わせながら静かに呟いた。

「潤のこと、本人から聞いたわ。」

「そう・・・。 潤は、あなたと会いたがっていたのよ。 突然いなくなるんですもの。」

「唯、大丈夫? 少し疲れているみたいだけど。」

「大丈夫よ。 潤の病気の事を聞いた時は、目の前が真っ暗になったわ。
 でも、今は、残された時間を少しでも大事に過ごしていきたいと思っているの。」

そう言う唯の顔は悲壮感よりも、むしろ穏やかだった。

「そう・・・。 でも、無理はしちゃダメよ。 私、近々ここに戻ってくることにしたから。
 だから、何かあったらいつでも言って。 20年間離れていた分、何かできることをしたいから。」

「ありがとう。正直言うと、少し心細さもあったから、明日奈がいてくれたら嬉しい。」

そう言った唯の目に、光ものがあった見えた気がした。


「また、あの頃みたいに、3人で一緒にいられるわね。」

「そうね、あの頃みたいに、また3人ね。」

ひとしきり話しをした所で、潤の病室に戻った。

潤は、まだ穏やかな顔で眠っている。

私と唯は、潤が寝ているベッドを挟んで向かい合って座っていた。
唯は寝ている潤の隣で、潤の髪の毛を指で梳いている。
愛しそうに潤を見つめる唯を見ているだけで、この20年間、潤に大切にされていた事が解る。

「潤が目を覚ましたら、また昔話をしましょう。 20年分ね。」

そう言った唯の笑顔は、20年前と何も変わっていない。
私も微笑んで、唯に答える。



学生時代を思い出す。

3人でドライブに出かけ、大きな芝生の公園の木の下で、
ハイキングがてら、唯の手作り弁当を食べた時の事を。

天気の良い日で、風がさわやかな初夏。 木陰でお弁当を食べ終え、
私と唯の間で、大の字になって潤がぐっすりと寝ていた。

潤の寝顔を幸せそうに見ていた唯の横顔、その眩しい横顔を私はじっと見つめていた。












−2ヶ月後、潤は穏やかに息を引き取った。

唯と私に見守られながら、静かに、唯と私の手を握りながら。
一筋の涙を流しながら、眠るように。

唯は、取り乱す事もなく、落ち着いてその後の諸々の事を仕切った。


1ヶ月過ぎて、唯はようやく後処理から解放されていた。
いろいろな事を夢中でやっている時には、気が張っていたからか、
唯は落ち着いていたが、その緊張から解放された今、放心状態になることが多い。

そんな唯を抱きしめると、唯は今までこらえていた思いを吐き出すように嗚咽する。
潤が居なくなったことで、私の胸に飛び込んでくる唯を抱きしめても、
私は嬉しさも幸せも感じることはなかった。

それでも、私は唯を支え包み、守り続ける。

唯を変わらず愛しているから。
潤も唯を心から愛してくれたから。

潤が、私との約束を守り続けてくれたから。
そして、その潤が、私に唯を託したから。

私たちの間で交わされた約束。


同じ女性を愛した私たちは、違った形で強く結ばれていたのかもしれない。



=終=



【あとがきと言うなの言い訳】
あぁー、えぇーっと、すみません・・・。百合小説じゃありません。(平謝)
ただ、なんとなーくこんなものを書きたくなって。 あぁ〜、ごめんなさいです。
でも、言い訳じゃないんですけどね、05/12/4の日記にも書いたんですが、
ビアン小説に出てくる男性って、あまり良く書かれないことが多いので、そうじゃないものを書きたくなったというか。
願望というか、同じ人を好きになったのであれば、性別に偏見を持たない男性がいたらいいなぁーと思って
思わずこんなの書いちゃいました。 すんません・・・、読み捨ててください。(平謝)