【 秘密 】
<<TOPに戻る


あなたが好きです。
心から、あなたが好きです。

でも、この気持ちは口が裂けても言えません。

口にしてしまったその瞬間、別れがそこにあるから。


いつも、あなたの横で、目を閉じ祈る。

あなたへの想いでこの身が焼かれてもいい、
全て焼き尽くされて、灰になってもいい、

ただ、あなたを想い続ける事を赦してください。







「千佳は、まだその癖なおってないんだ。」

「えっ? 癖って、何のこと?」

「歩きながら目を閉じる癖。
 学生時代から、よくそれで電柱にぶつかったり、溝に落ちそうになったり。
 その都度、良く大笑いしたの、覚えてない?」

「あぁ、そうだっけ・・・。
 そうだね、これはなおってないかも。」

「今まで良く怪我とかしなかったよね、一歩間違えば大けがするのに。」

「んー、いつもそういう訳じゃないから。」

「そうなの?」

「うん。 まぁ、その話しはいいから。
 それより、雅美は準備進んでるの?」

「ん・・・、そうなんだよねぇ。
 これが、なかなか面倒でさぁ。 とにかく色々あるのよー。」

「へぇー、そうなんだ。
 結婚って、面倒なんだねぇ。 いっその事、やめちゃえば?」


── 冗談の中に、ほんの少しの本気を込める。


「あははっ! そうだね、やめちゃおっか!」



── 決して、望んでもなく、出来るはずもない事を、雅美は笑顔でこぼす。



「そんな事言っても、出来もしないくせに。」



── 意地悪なからないと少しの嫉妬を込める。



「まぁね。 でも、健司と一緒に居られるなら、別に結婚って形式には
 拘らないんだけど。 でも、両親の手前とかあるしねぇ。 だから大変。」

「あぁ、面倒だねぇ。まぁ、私には一生縁がないものだから、関係ないけど。」

「ねぇ、千佳は、今は相手はいないの?」

「んー、この間別れちゃったしねぇ。」

「もう、早くいい人見つけて落ち着けばいいのに。
 えっと・・・、あのさ。」

「なに?」

「ぅ・・・ん、あの、やっぱり、その、女の人じゃないとダメなの?」


── 雅美はばつが悪そうに、恐る恐る念を押すように小さな声で呟く。


「うん、雅美にも話したでしょ? 私がゲイだって。
 まぁ、雅美がそれで態度を変えないでいてくれたのは嬉しかったけど。」

「そ、そんなこと、有るわけないじゃん!!
 千佳が、その、ゲイだからって、そんなの関係ないもん。」

「そう言ってくれてほんと嬉しい。

 でも、惜しい事に、私は年上しか好きじゃないから
 雅美は対象外で申し訳ないんだけどね?

 私は、色っぽいお姉さん系が好みだから♪」


「ちょ、ちょっと!! 千佳!!」

「あはは! ごめんごめん、冗談だって。
 でも、いつも心配してくれてありがとう。ほんと嬉しいんだって。」

「ったく、だったら、そんな冗談言わないの!
 でも、千佳にもほんと幸せでいて欲しいからさ。」

「うん、ありがとう。」

「いつでも、何かあったら相談してね。」

「それじゃ、雅美の結婚式のスピーチをどうにか断りたいのですが・・・。だめ?」

「それは、却下!」

「ひどいなぁ〜。」

「当たり前じゃない♪ 式のスピーチは、千佳ってずっと決めてたんだもん♪」

「はいはい、それは、光栄の至りでございます。
 で、結婚祝いは、何をお求めでしょうか? 雅美様。」

「分かればよろし!
 んとね、調理器具が欲しいんだ、一緒に見てくれる?」

「もちろん!」




道すがら、雅美は、惚気なのか愚痴なのか分からないことを無邪気に喋る。
その屈託のない笑顔は、学生時代の頃と全く変わってない。

初めて彼氏が出来た時もそうだった。
そして、今の旦那と知り合った時も。

最初の彼に振られて泣いていた時、どれほど自分の物にしてしまおうと思ったか。
けれど、その刹那、雅美はきっと壊れてしまう。

雅美を失ってしまうなら、世界は崩壊してしまう。

雅美が壊れるくらいなら、溢れる想いにこの身を全て焼き尽しても沈黙を心に誓う。



「千佳? ほら、信号変わるよ?」

「えっ? あっ、うん。」




無邪気に微笑むその表情を目にする度に、
心の一部が焼き焦げる。

あと、どのくらい、こうして隣りにいられるだろう。

この想いを封じ込めているこの体は、いつまで耐えられるだろう。


好きで、好きで、好きで・・・。

誰よりも、あなたの事を想っています。




この想いは、あなたには届かない。

気付かれないように目を閉じそっと祈る。

あなたが幸せであるように
わたしが、あなたのそばにいられるように


静かな祈りとわたしの想い、それは沈黙と言う名の永遠の秘密




あとがきいっとく?>>